スターライナーこれまでの歩み

スターライナーの開発の発端は2000年代にまでさかのぼる。NASAは2006年から、ISSへの物資補給を民間企業に委託する計画を開始。さらに2011年からは、宇宙飛行士の輸送も委託する「商業クルー・プログラム(Commercial Crew Program)」が始まった。

そして選考を経て、ボーイングとスペースXが計画に参画。NASAからの資金提供を受けて、ボーイングはスターライナーを、スペースXはクルー・ドラゴン宇宙船を開発することになった。

NASAにとっては、民間企業に競わせることで、コスト削減や技術革新を促進。また、複数の宇宙船を運用することで冗長性を確保し、たとえばどちらかの宇宙船がトラブルなどを起こしたり飛行が止まったりしても、ISSの運用を続けたり、なにより宇宙飛行士が地球に帰れないといった最悪の事態を防げたりできるという狙いもあった。

また、NASAは2011年に老朽化したスペース・シャトルを引退させたあと、ロシアに運賃を支払って「ソユーズ」宇宙船の座席を購入し、米国や日本、欧州の宇宙飛行士を乗せてISSへ送ってきた。そのため、スペースXとボーイングには、ロシア依存からの脱却と、“米国の地から、米国の宇宙飛行士を、米国の宇宙船で飛ばす”ことの復活という、大きな期待もかけられていた。

両社の開発は、技術的な問題や、NASAの予算不足などを理由にスケジュールが遅れたが、スペースXは2020年からクルー・ドラゴンの運用を開始。NASAからの輸送サービス契約に基づき、NASAや日本などISS参加国の宇宙飛行士の輸送を担っている。これまでに3回のミッションをこなし、現在は4回目のミッションが進行中である。

  • スペースXのクルー・ドラゴン宇宙船

    スペースXのクルー・ドラゴン宇宙船。スターライナーよりも早く運用を開始した (C) NASA

一方、スターライナーの開発は、決して順風満帆ではなかった。クルー・ドラゴン同様に開発が遅れたのち、2019年12月20日には無人での軌道飛行試験(OFT-1:Orbital Flight Test-1)で初めて宇宙へ打ち上げられた。当初はISSにランデヴーし、ドッキングを行うことも計画していたが、ソフトウェアや通信などに複数のトラブルが発生。ミッションを途中で打ち切り、打ち上げから約2日後に緊急帰還する事態となった。

帰還後、NASAやボーイングは「一定の成果が得られた」としたものの、その後、再度無人飛行試験を行うことを決定。OFT-1で起きたトラブルの改修を経て、2021年7月に打ち上げに臨むことになった。

ところが、打ち上げ準備中にスラスターのバルブにトラブルが発生。スターライナーはすでにロケットに搭載された状態だったが、すぐには解決できず、打ち上げを中止。原因調査の末、サービス・モジュールごと新品に取り替えることとなり、打ち上げはさらに遅れることになった。

そして、当初の打ち上げ目標から約10か月遅れのこの5月、スターライナーOFT-2はようやく飛び立ったのである。

  • ISSに係留中のクルー・ドラゴンの窓から撮影されたスターライナーOFT-2

    ISSに係留中のクルー・ドラゴンの窓から撮影されたスターライナーOFT-2 (C) NASA

今後の計画

スターライナーにとって、次なるハードルは有人での飛行試験である。

この試験は「CFT(Crew Flight Test)」と呼ばれ、 現在2022年中の実施が予定されている。搭乗するクルーは3人が予定されているが、現時点で誰が搭乗するかは未定となっている。かつては搭乗する宇宙飛行士の割り当てが行われ、氏名も発表されていたが、スターライナーの開発の遅れや、搭乗予定だった宇宙飛行士の健康問題などさまざまな理由により、一旦白紙となった。

CFTが成功すれば、いよいよ運用段階に入り、クルー・ドラゴンとともにISSへの宇宙飛行士の輸送を担うこととなる。ただ、CFTの結果にも左右されるため、その開始時期はまだ決まっておらず、早くとも2023年以降となろう。

NASAは、クルー・ドラゴンとスターライナーの両方を使用して宇宙飛行士の輸送を行うことを前提としており、スターライナーの運用開始の遅れは、そのままISSの運用に影響が出る。すでに、もともとスターライナーに搭乗する予定だった宇宙飛行士がクルー・ドラゴンに振り替えられるなどの影響が出ている。宇宙航空研究開発機構(JAXA)によると、両機は操縦方法などに互換性がないため、搭乗に際してはそれぞれ別の訓練、認証が必要になるとしており、宇宙飛行士の時間的、肉体的な負担も大きい。

またボーイングにとっても、NASAからの受注でスターライナーを飛ばすことで利益が生まれるため、金銭的にも、契約の履行という面でも、これ以上の遅れは避けたいところだろう。

ボーイングはまた、ジェフ・ベゾス氏率いる宇宙企業ブルー・オリジンなど複数社と協力し、商業宇宙ステーション「オービタル・リーフ」を建設、運用することも目指しており、スターライナーは地球と同ステーションを往復する輸送手段として使うことを想定しており、またオービタル・リーフはISSの後継機という位置づけにあるため、こうした点からもスターライナーの早期の運用開始、そして安定した運航が求められている。

さらに、ロシアのウクライナ侵攻にともなう米ロ関係の悪化により、今後のISSの運用が不透明となりつつある中、米国のみで複数の宇宙船を運用する重要性が高まってもいる。

スターライナーの開発は四苦八苦の歩みだったが、今回のOFT-2の成功により、ひとつの大きな山を超えた。しかし、これからも有人の飛行試験、そして運用段階への移行と、さらにいくつもの、そしてより高く険しい山がある。このままスムーズに登りきり、名誉挽回を果たすことができるか。スターライナーの挑戦は続く。

  • ISSに接近するスターライナーOFT-2

    ISSに接近するスターライナーOFT-2 (C) NASA

参考文献

NASA, Boeing Complete Starliner Uncrewed Flight Test to Space Station | NASA
MediaRoom - News Releases/Statements
Starliner Updates
Boeing: Starliner CST-100 Reusable Spacecraft Capsule
Final Report - IG-20-005 - NASA's Management of Crew Transportation to the International Space Station