また、生後2週間のオポッサム新生仔に対して心筋の損傷や心機能の回復状況の経時的な計測が実施されたところ、心筋再生能を持つことを確認したとするほか、出生後1か月が経過するとそれが失われることも確認したという。この期間は、これまでに調べられたほ乳類の中では、心筋再生能を出生後に維持している期間としては最長になるという。
さらに、細胞分裂を停止させるトリガーを調べることを目的にオポッサム新生仔の心筋組織に対するトランスクリプトーム解析が行われたところ、オポッサムの心臓では出生後2週間前後で、「AMPKシグナル」と呼ばれる細胞内シグナル伝達に関わる遺伝子の発現が強く誘導されていることが見出されたとする。
AMPKシグナルの活性化が心筋細胞の細胞分裂停止を誘導している可能性が示されたことから、マウスとオポッサムの両方の新生仔に対して、AMPKシグナルの阻害剤を投与してその活性化の抑制が試みられたところ、いずれの新生仔においても心筋細胞の細胞分裂停止が抑制され、マウスでは出生後7日、オポッサムでは出生後28日でも心筋細胞が細胞分裂していることが確認されたとするほか、AMPKシグナルの活性化を出生後の心筋細胞でのみ抑制できるコンディショナルノックアウト(KO)マウスを用いた実験からも、AMPKシグナルの抑制が心筋細胞の細胞分裂停止を抑制することが確認されたという。
なお、今回の研究成果は、新生仔の持つ心臓再生能の分子機構の一端を明らかにするとともに、心臓再生研究の新たなモデル動物としてオポッサムの持つポテンシャルを示すものであり、オポッサムには子宮外環境でも心筋細胞が細胞分裂を継続するための特有の仕組みが備わっていることが示唆されるとしている。
今後は、その詳細なメカニズムを追究し、ヒトを含むほ乳類の成体においても心筋細胞の細胞分裂を活性化する方法を発見できれば、心臓の再生医療戦略の確立に貢献することが期待できるとしている。