半導体の模倣品(偽造品)はどうやって売られるのか?
こうした半導体不足で問題となってきているのは、必要とする半導体がいつものルートで手に入らないことに付け込んだ模倣品の販売である。
ただ、模倣品そのものは半導体業界の黎明期から存在している問題である。弊誌でも、吉川明日論先生に以前、AMD勤務時代を振り返り、偽物半導体とグレーマーケットに関する話題を取り上げてもらったことがあるほか、筆者自身も20世紀の米国西海岸で、ウェハを輸送中のクルマが襲撃され、襲撃者にウェハが強奪されていった、という話を聞いたことがある(あくまで聞いた話であり、事の真偽は不明)。
模倣品の市場への流通は、いくつかパターンに分かれる。SEMIでは、以下の3パターンを発生例として提示している(吉川明日論先生の記事では、これらのほか、メーカー自身の営業が売り上げのために、特別価格で押し込んだ製品の一部がグレーマーケットに流れる、という話などがあるが、その場合は、製品としては模倣品ではないので割愛)。
- 使用済み半導体が新品として市場に流される
- 半導体製造受託業者などからの不正流出
- 偽造製造されている
ブロックチェーンを模倣品対策に活用
SEMIが、模倣品(偽造品)に注視することになったきっかけは2011年ごろ。米国で軍用機器に使用される半導体デバイスに模倣品が混入していることが判明し、それが国家の問題として認知され、対策のための法律が策定されたことにある。
これを機に、SEMIに対しても模倣品対策が求められるようになり、2018年にタスクフォースが結成されることとなったという。以来、製造から納入まで一貫したトレーサビリティの整備や検品手法、管理手法の統一に向けたスタンダードの整備などが検討されてきており、日本でも2019年にこれらのタスクフォースをキャッチアップするためのタスクフォースが結成され、2020年末に日本地区でもSEMIスタンダード日本地区トレーサビリティ委員会にブロックチェーン・タスクフォースが結成されることとなった。こうした模倣品対策の取り組みについては、SEMICON Japanでも、こうしたタスクフォース結成以前、2000年代からトレーサビリティ技術を活用した模造品防止に対するワークショップなどが開かれてきたこともあり、耳にしたことがある人も多いと思われる。
このコロナ禍における模倣品/模造品/偽造品の問題は、必要とする半導体デバイスが、いつもの代理店を介した正規ルートでは手に入らず、やむを得ず、普段使ったことのないルートで入手をした結果、それが正規品ではなかった、というケースがさまざまなシーンで発生するほどまでに半導体が不足したことにある。
半導体の真贋判定サービスを提供する企業の中には、2021年通期の売り上げ目標を、期末まで待つことなく軽く達成してしまったところもあるほど盛況ぶりを見せるところもでているほどである。
こうした市場の状況を鑑み、SEMIでもその半導体デバイスが正しく製造されたものであるということを証明することができる規格の策定を米国メンバーが中心となって進めているほか、半導体デバイスの流通過程におけるトレーサビリティの実現に向けたデータの定義なども米国メンバー中心に進められているという。一方の日本のメンバーを中心に進められているのが、ブロックチェーンを活用することで、半導体デバイスの流通過程のトレーサビリティを実現しようという規格の作成である(Blockchain タスクフォース)。
ブロックチェーンを活用することで、どのようなメリットが得られるのか。言うまでもなく、ブロックチェーンは分散型台帳方式で、誰が、いつ、どのような情報を台帳に書き込んだのかが分かる仕組みであるため、偽造や改ざんが難しいとされている技術。半導体デバイスに関するブロックチェーンに、デバイス単位やロット単位で品質情報をデバイスベンダやOSATが書き込み、下流に流すと、工程を経るごとに、誰が何の情報を追記・改変していたのかが分かるようになる。また、ブロックチェーンに参加しているユーザーであれば、川上であっても、川下であってもダイレクトにアクセスでき、流通情報の変化を確認することができる。
つまり、これまで自動車メーカーが問題を確認した場合は、自動車メーカー→ティア1→プリント基板や半導体メーカーなどのティア2といった順に行っていた問い合わせを、ブロックチェーン上のデータにダイレクトにアクセスすることで、速やかにどこの誰が何を行ってきたのかを把握することができるようになることになる。
また、従来のサーバ/クライアント方式とは異なるため、ネットワークに参加するための敷居を下げることができるほか、運用コストの低減も図ることも可能になるとする。さらに、将来求められる、新たな数値データなどもそこに追記してサプライチェーン上に流すことも容易になるとする。
「世界的な組織であるSEMIがスタンダードを規定することで、参加企業はネットワークが接続されていれば、どこからでもアクセスでき、模倣品かどうかを即座に判別することができるようになる」とSEMIでは、そのメリットを強調する。
ただし、まだ規格は開発・策定中であるほか、誰がそのネットワーク運用・管理のコストを負担するか、といった現実面での問題が残されている。SEMIでも1つのブロックチェーン上で、さまざまなユーザーがそれにアクセスする形が理想的とするが、その運用のためには、公平な組織、例えば業界の壁を越えたコンソーシアムなどが行うことべきであるが、それを為すためには機が熟す必要があるとの見方を示している。
なお、SEMIによる模倣品対策関連のスタンダードだが、半導体デバイスの製造・流通などのサプライチェーンを通じて模倣品や不適格品の存在を大幅に削減することを目的としたトレーサビリティの規格でサプライチェーン管理のコンセプトを定義した「SEMI T23」は2019年に規格が成立し、ドキュメントが出版済みながら、それ以外の半導体デバイス製造工場に納入する重要な半導体材料、主な装置や装置を構成する重要部品に対してSEMI規格で決められた2次元バーコードラベルを貼って出荷/入荷を管理する「Doc.6448C」、半導体デバイス製造工場に納入する重要な半導体材料、主な装置や装置を構成する重要部品に対して適応されるトレーサビリティ基準を定義する規格「Doc.6449」、半導体デバイス出荷後、サプライチェーンでの追跡を実現するために扱うデータを定義「Doc.6504」、そしてブロックチェーンを使って半導体デバイスのサプライチェーントレーサビリティを実現するための規格「Doc.6910」については、現在開発中としている。