実際の抗菌性ナノ粒子の合成には、石けんのような界面活性剤を用いない「ソープフリー乳化重合」と呼ばれる手法が用いられた。ソープフリー乳化重合で得られるポリマー粒子は、ほかのポリマー微粒子重合法に比べ粒子表面に存在する分子の数が少ないため、重合条件(原料とする分子の種類や量)の影響が粒子表面に表れやすいという特徴があるという。

今回の重合には、キリンホールディングスによって開発された、イミダゾリウム骨格を有するカチオン性ラジカル重合開始剤(ADIP)が用いられた。そして、スチレンとカチオン性コモノマー(VBTMAC)の共重合により、粒径154nm、粒径のばらつき度合いを示す分散度が4%(10%以下であれば、粒径が揃った粒子)のナノ粒子状のポリマーの合成に成功したとするほか、コモノマーの濃度を変化させることで、粒径が揃った粒子を得ることができたとする。

  • 今回の実験で用いられたADIPおよびVBTMACの化学構造式

    (左)今回の実験で用いられたADIPおよびVBTMACの化学構造式。(中央)VBTMAC添加濃度と合成粒子の分散度(粒径のばらつき度合い)の関係。(右)合成粒子の電子顕微鏡像。下が、今回の研究で合成された粒径の揃ったナノサイズのポリスチレン粒子 (出所:東北大プレスリリースPDF)

合成された粒子に関して、表皮ブドウ球菌に対する抗菌性が調べられたところ(1mg/mLの粒子が菌の増殖を抑制するかを評価)、抗菌活性があることが確認されたとするほか、異なるコモノマー濃度での重合や、市販の重合開始剤を用いた重合実験も行い、それらの抗菌性も合わせて評価比較したところ、粒子状ポリマーの抗菌性の発現には、ADIPとVBTMACの両者を使うことが必要であることが判明。その抗菌性を最小発育阻止濃度(MIC)において評価したところ、塊状重合と呼ばれる方法で合成されたアクリル系ポリマーに比べて50倍以上高い抗菌性が示されたとした。

  • 粒子状ポリマーの合成条件、粒子径、および抗菌性

    粒子状ポリマーの合成条件、粒子径、および抗菌性 (出所:東北大プレスリリースPDF)

ソープフリー乳化重合によって得られるポリマー粒子の表面には、重合開始剤由来のイオン基が導入されることが知られている。今回は、重合開始剤(ADIP)由来のカチオン性官能基と、カチオン性コモノマー(VBTMAC)由来のカチオン性官能基によって粒子表面がプラス電荷となっており、ミクロな視点で解析された粒子の表面状態が、ナノ粒子状ポリマーの抗菌性を決める重要な因子となり得ることが実験的に明らかになったと研究チームでは説明している。

なお、今回開発されたナノ粒子状ポリマーは、安価なモノマーを用いて1回の反応操作で合成することが可能であり、菌に触れることで増殖抑制を図る接触型抗菌材料(contact-killingagent)として利用できるという。また、水溶液中でも安定であるため、ナノ粒子状ポリマーを水溶液に加えるだけで菌の増殖抑制が期待でき、液体系製品の長期保存にも展開できるとしている。