グラフェン包接ゼオライト分離膜の作成は、疎水性ゼオライトであるMFI型ゼオライト結晶の周りをグラフェンで包むところから始まる。包むにはコロイド科学の原理が利用されており、グラフェンとゼオライト結晶面が互いに近接するようにすると、その間に水素のみが透過できる狭い空間ができるほか、グラフェン-グラフェン間には強い引力が働くため、グラフェンで包接されたゼオライト結晶同士は、互いに密に接触していていかなる気体も通過できなくなるということで、水素とメタンの効率的な分離が可能になるという(ゼオライト結晶の表面には構造由来の凹凸があり、グラフェンとの間に水素分子が選択的に透過できるチャンネルがある)。

一方、グラフェン包接ゼオライト結晶同士の接触点は少なく、結晶粒子間には大きな空隙があるために、水素の移動は迅速だとのことで、これにより超高速透過が可能になるという。

メタンに対する水素の分離係数と気体透過係数を、従来報告されている分離膜の特性と比較したところ、今回の高分子分離膜は従来の分離膜より分離係数を高く保ったまま、100倍程度高速で水素を分離可能であることが確認されたとする。

  • グラフェンで包接したゼオライトの電子顕微鏡像

    (左)グラフェンで包接したゼオライトの電子顕微鏡像。(右)グラフェンで包接したゼオライト結晶間の水素分子の透過モデル。黒丸のつながりは1層のグラフェンのモデルで、ナノ窓のところは空白で表されている。赤で示されている水素は、グラフェンとゼオライト結晶表面の隙間を透過。一方、大きなCH4分子はそこを透過しづらい (出所:信州大プレスリリースPDF)

この成果について研究チームでは、分離膜法によって省エネルギー分離への道を拓いたものとしているほか、この分離原理が、従来の高分子での溶解機構、ゼオライト分離膜での細孔サイズによる分離機構とは異なっているところに優れた点があるとしている。

また、ゼオライトあるいは別の結晶の表面構造の選択によって、分離ターゲットに応じた高速分離膜を開発できることが期待されるともしており、今回の高分子分離膜の工業的製造と分離膜の大型化が、産業界との協力によって実現すれば、化学工業をはじめ、多くの産業での抜本的な省エネルギー化につながり、大幅なCO2削減に寄与できるとしている。

なお、研究チームは現在、空気から富化酸素を大量にかつ迅速に製造する基幹技術の確立に向けての研究を進めているとのことで、これが実現されれば、鉄鋼業や化学工業だけでなく、多くの産業にわたって甚大な量のCO2を削減することが可能になるとするほか、小型で携帯できる医療用の富化酸素供給器の開発にもつながるとしている。