具体的には、モニターの左右に四角い目印を表示し、その中に標的を一定間隔で交互に呈示して、これを(同期して)眼で追うようにサルが訓練された後、小脳の出力部である歯状核における単一神経細胞(ニューロン)の活動を記録したところ、小脳歯状核ニューロンには、「(1)特定方向の運動の前に活動するもの」、「(2)方向に関係なく運動の前に活動するもの」、「(3)運動の直後に活動するもの」の3種類があることが判明したという。
“特定方向の運動の前に活動するもの”については、次に行う運動のタイミングとよく相関した活動が示されており、運動の制御に直接関わっていることが考えられるという。また、“方向に関係なく運動の前に活動するもの”のタイプは、運動そのものよりも周期的に現れる標的のタイミングに一致した活動が示されており、標的の内部モデルを表象していることが考えられるとする。そして“運動の直後に活動するもの”のタイプは標的と運動の時間ずれ(エラー)とよく相関した活動が示されており、同期運動の時間誤差を検出することに関与すると考えられたとする。
これらを踏まえ、これらのニューロンの記録部位に電気刺激による外乱が与えられたところ、同期運動のタイミングが変化し、その方向と大きさはこれら3種類のニューロンが持つ情報の線形和で説明することができたという。
小脳核ニューロンの多くは視床を介して大脳皮質に広く信号を送っていることから、同期運動を行う際の運動制御信号とともに、標的の内部モデルの生成や、これをアップデートするための誤差信号を大脳の異なる領野に送っていることが考えられると研究チームでは説明している。
なお、今回の研究成果は、小脳疾患で見られる病態を理解して機能評価する方法の開発に役立つだけでなく、ニューロモジュレーションを用いた介入法の開発や、さまざまな情報処理に用いることができる脳型回路による予測アルゴリズムの開発などに貢献することが期待されるという。