大阪大学(阪大)は5月17日、独自に開発した「0価ニッケル錯体」を用いて、一酸化炭素(CO)を高効率的に吸着する材料となることを見出すと同時に、得られたCO吸着体をイオン液体に分散して減圧条件下にさらすと、室温においてCOが脱着し原料錯体が再生すること、ならびにこの0価ニッケル錯体を用いて、COと水素(H2)と窒素(N2)の混合ガスからCOを分離することに成功し、水素精製技術としても応用可能であることを実証したことを発表した。
同成果は、阪大大学院 工学研究科 応用化学専攻の星本陽一准教授、同・山内泰宏大学院生、同・川北崇裕大学院生、同・木下拓也大学院生、同・生越專介教授、同・植竹裕太助教、同・櫻井英博教授らの研究チームによるもの。詳細は、米国化学会が刊行する主力学術誌「Journal of the American Chemical Society」に掲載された。
アルコールやカルボン酸などの化成品やプラスチック合成などの工業原料として用いられるCOは、さまざまな炭素資源から大量に合成されるが、環境問題の観点から省エネルギーなCO分離手法が求められている。研究が進められている1つが、金属原子とCOとの強い相互作用に注目した、「可逆的化学吸着反応」を利用した手法だという。
ただしこの反応は、金属とCOの結びつきが強いと、COをより強くかつ素早く吸着させることができるが、逆に金属からCOを放出させたいときに、大きな足かせとなってうことから、CO脱着過程には過激な加熱条件(180~280度)が適用されるなど、メリットも大きいがデメリットも大きいという課題があった。
これは、「COと強く相互作用し強く吸着する性能」と「室温(~100度までのより穏やかな条件)でも効率的にCOを放出する性能」という、矛盾した2つを兼ね備えた分子材料を創出することができれば、省エネルギーなCO分離手法を実現できる可能性があることを意味する。
そこで研究チームは今回、従来とは異なるメカニズムで駆動するCO吸脱着材料を、CO親和性が高い0価ニッケルを用いて創出することにしたという。そして、ニッケル上に結合した配位子に「COの呼び込みと追い出しを促進する鍵パーツ」を組み込むことで、置換反応機構(鍵パーツが解離するとCOが吸着し、逆に鍵パーツがニッケルに結合するとCOが脱離する)を経るCO吸脱着システムを設計するに至ったという。
このアプローチは、従来の分子材料に見られるメカニズムとは明白に異なると研究チームでは説明するほか、蒸気圧がほぼゼロであり揮発しないイオン液体を、CO脱着プロセスを促進する分散剤として活用するという、新しいイオン液体の利用法も提案されたとする。