マルチアンテナ手法

ほとんどの無線システムは、商業用アプリケーションであれ、航空宇宙/防衛であれ、レシーバー、トランスミッター、あるいはその両方でマルチアンテナ手法を使用して、システム全体の性能を向上させています。

このような手法には、空間ダイバーシティー、空間多重化、ビームフォーミングなどがあります。マルチアンテナ手法を駆使してダイバーシティーと多重化を実現し、アンテナ利得を達成しています。これらの取得により、無線システムはレシーバーのデータスループットとSNRを向上させることができます。たとえば、5G NRではFR1に8つの空間ストリームを使用し、信号帯域幅を広げずにスペクトル効率を向上させています。その結果、3GPPは技術仕様書(TS)38.141-1において、5G NR基地局の複数の空間ストリームを用いた性能テストを定義しています。このテストでは、最大2つの送信アンテナと8つの受信アンテナを必要とし、各テストケースは特定の伝搬条件、相関行列、およびSNRを適用します。図2は、2つの送信アンテナと4つの受信アンテナを使用し、ハイブリッド自動再送信依頼(HARQ)フィードバックを行う5G基地局の性能マルチ入力マルチ出力(MIMO)テスト構成を示しています。

  • 4チャネル信号発生器を用いた5G NR基地局性能テストのためのテストセットアップ

    図2. 4チャネル信号発生器を用いた5G NR基地局性能テストのためのテストセットアップ

IEEE 802.11axと比較して、次世代Wi-Fi規格であるIEEE 802.11be(Wi-Fi 7)は、信号帯域が2倍、空間ストリームが16本、変調方式が4倍の密度を提供しています。これらを合わせると、最大40 Gbpsのデータレートを提供することができます。 表2は、IEEE 802.11物理層における大きな変更点を示しています。

  • IEEE 802.11規格

    表2. IEEE 802.11規格

空間ダイバーシティー、空間多重、マルチアンテナアレイを使用したマルチアンテナシステムのテストには、マルチチャネルの信号を安定した位相関係で供給できるテストシステムが必要になります。

しかし、市販の信号発生器には、中間周波数(IF)信号をRF信号にアップコンバートするための独立したシンセサイザーが搭載されています。テストシステムは、マルチチャネルのテスト信号をシミュレートするために、チャネル間の正確なタイミング同期を提供しなければなりません。テスト信号間の位相はコヒーレントで制御可能でなければなりません。 図3は、マルチアンテナテストの測定の不確かさを最小化するのに役立つ、完全に統合され、校正され、同期された信号生成と解析のソリューションを示しています。

  • Keysight M9484C VXG 4チャネルのベクトル信号発生器と4ポートオシロスコープ

    図3. Keysight M9484C VXG 4チャネルのベクトル信号発生器と4ポートオシロスコープを使用したマルチチャネル・テスト・ソリューション

まとめ

5G、衛星、Wi-Fiなどの次世代無線通信システムでは、より高い周波数、より広い帯域幅、より複雑な変調、マルチアンテナの設計が必要とされます。

これにより、テストの複雑化、測定の不確かさ、過剰な経路損失およびノイズなどデバイスの性能に影響を与える、設計とテストの新たな課題に直面することになります。

これらの課題を克服するためには、より高い周波数カバレージ、広帯域化、マルチチャネルアプリケーションを容易かつ正確に実現するスケーラブルなテストソリューションが必要となります。完全に統合され、校正され、同期化されたソリューションにより、テストの複雑さを軽減し、より速く、再現性のある、正確な結果を得ることが可能になります。