また、加圧により融解する氷の界面には、やはり周囲の水から分離した微小な液滴が形成することが確認された。液滴の濡れ角から、これらの未知の水は周囲の水と比較して低密度であることが示され、水/氷Ihの界面にはこれまで知られていなかった未知の水ができることが示されたとする。

  • 水/氷Ih界面に形成される低密度な未知の水の顕微鏡その場観察像

    水/氷Ih界面に形成される低密度な未知の水の顕微鏡その場観察像。(A)減圧により成長する氷Ih単結晶。(B)(A)の拡大像。a~dは(A)中の点線で示された領域a~dの拡大像。白い矢印の先にあるのが低密度な未知の水の液滴。(C)各顕微鏡像の模式図 (出所:東北大プレスリリースPDF)

研究チームが先行研究で発見した水/高圧氷の界面の高密度水に続き、今回の研究から、水/氷Ihの界面に確認された2種目の未知の水である低密度水が存在することが示されたが、このことはLDLとHDLという通常の水とは異なる2種類の水が存在するという仮説と類似して、水/氷の界面には、通常の水とは異なる少なくとも2種類(低密度および高密度)の水が存在することが示されたと研究チームでは説明する。

  • 水/氷Ih界面に形成される低密度な未知の水の微分干渉顕微鏡その場観察像

    水/氷Ih界面に形成される低密度な未知の水の微分干渉顕微鏡その場観察像。(A)加圧により融解する氷Ih単結晶。(B)(A)の拡大像。a~dは(A)中の点線で示された領域a~dの拡大像。a・c中の白い矢印は低密度な未知の水の液滴が示されている。液滴を見やすくするため、b・d中の液滴には矢印はつけられていない。(C)各顕微鏡像の模式図 (出所:東北大プレスリリースPDF)

また、今回発見された低密度水の動きを解析することにより、液体の流れやすさの指標となる特徴的速度(表面張力と粘性の比)の値をおよそ20m/sと測定することができたとする。この値は、空気と氷Ihの界面にできる疑似液体層の示す値(2m/s~0.2m/s)とは異なるため、今回発見された低密度水は、通常の水とも疑似液体層とも異なる液体であることが判明したとするほか、高圧氷と水の界面にできる高密度水の動きの解析から、その特徴的速度もおよそ100m/sと測定されたという。LDLの粘性は、HDLの粘性よりも1桁大きいことが分子動力学計算により示されているという。

なお、今回決定された低・高密度な水の特徴的速度の関係は、LDLとHDLの粘性の関係と類似していることが確認されたことから、研究チームでは今後、低・高密度な未知の水とLDL・HDLの関係を明らかにしていくことで、水の特異物性の謎に迫ることができるとしている。また、今回の水/氷界面における未知の水の多様性の発見は、いまだ謎に包まれた奇妙な液体である水の物性の原因解明だけでなく、これまで理解できなかった水が関わる現象の解明にも分野を超えて貢献することが期待できるともしている。