「事業なき技術は無駄、技術なき事業は無謀」

--中井社長の経歴を拝見すると、技術者としてずっと歩まれてきたように思います。経営側にいくきっかけのようなものはあったのでしょうか。

中井氏:経営に携わったのは、2020年にOKIシーテックの社長になってからなのですが、2014年に研究開発部門から事業部門に異動した際に、研究開発部門で生まれた成果を商品にしていく“技術移転”の仕事をやることになりました。

研究開発部門にいたときには、性能や機能の話だけで済んだのですが、技術移転の際には「この業界にはこれくらいの値段でこの商品が売れそうだから、どれくらい投資して商品にしていく」といった話をしなければいけなくて、そのあたりから、少し経営の話にも触れていったのかと思います。

--技術者としてキャリアを積んでいる方で、将来は経営に携わりたいと考えている方へのアドバイスなどはございますでしょうか

中井氏:技術者にとって、自分が開発した技術が商品になって世の中の方に使ってもらえるのは醍醐味です。一方で技術を商品にするときには、ある程度投資が必要になるので、経営者に対して、技術を商品化してほしいと説得をしなければなりません。しかし、説得をしても、自分の思い通りにならないということがたくさんあると思います。

そして、経営者になると、その立場が逆転して、プレゼンを受ける側になるわけです。これまで技術者として提案に苦労してきた方ほど、経営者になって提案を受けると、提案をする側の苦労や工夫などがよくわかって、おもしろいと思います。

私も研究者なので、寝ずに努力した研究が「役に立たない」と言われた経験はたくさんあります。そんな経験しかないかもしれません(笑)

--自身で大切にされている信条があれば教えてください

中井氏:ピーター・ドラッカーの「理論なき実践は暴挙であり、実践なき理論は空虚である」は私の座右の銘にもしています。

私はずっと技術者をやってきて、いま事業に携わることになりましたが、技術と事業の関係を考えたときに、この言葉をなぞって「事業なき技術は無駄、技術なき事業は無謀」とみんなに言うようにしているんです。

世間の変化の中で出てくる新しい課題が新しいサービスにつながる

-- 社長就任1期目にあたる2022年度に特に注力していきたいことがあれば教えてください

中井氏:現在の一番の問題は、我々のお客様が半導体不足などで開発をストップすると、我々の事業である試験にも持ち込めないので、我々の事業もストップしてしまうというところです。

その中でも、お客様は開発をストップしないようにさまざまな工夫をされています。その中で起こってくる、新しい問題を解決することが、我々の新しいサービスになると思っています。

例えば、「半導体真贋判定・信頼性試験サービス」はそのモデルケースです。

お客様の状況はこれからもどんどん変わってきます。その変化の中で出てくる新しい課題に我々も対応していくことを2022年度は強化しなければならないと思っています。

-- 今後社長として注力していきたいことについて、教えていただけたらと思います

中井氏:先ほどの話にもあったのですが、我々の事業はお客様がどんどん開発を進められる環境であれば、それにつられて我々の事業も伸びていくという関係にあります。

お客様が元気になることは、日本の産業が活性化することにもつながります。今の日本の産業は少し元気がないと感じています。産業の活性化に当たっては、ポイントは3つあると感じています。

1つ目はグローバル化、2つ目はスタートアップやベンチャー、3つ目はイノベーションだと思っています。

グローバル化に焦点を当てると、我々の事業だと、独立試験所※2という認定を受けています。例えば、ドイツの自動車メーカーに部品を納める際には、メーカーから試験内容の指定をされます。その際には、試験機まで指定されることもあるのです。その試験機がドイツにしかなければ、ドイツにわざわざ行って試験をしなくてはなりません。これは、グローバル化の障壁となります。

OEGでは、そうした海外の会社が指定するような試験機も有しており、日本で試験を行って、海外のメーカーに部品を納めることができます。ちょうど現在、そういったグローバルに対応したサービスも強化しようと計画しています。

また、ベンチャーやスタートアップというところに焦点を当てると、ベンチャーの方々は、ある一点の素晴らしい技術を持っていて、そこに投資を集中して、商品にするための信頼性や耐用性の試験にまで投資が回らないということもあると思います。そういった際に、我々のサービスを使っていただき、素晴らしい技術に投資を集中して、どんどん新商品を出すということになると我々の成長にもつながります。

そして、イノベーションの部分ですが、イノベーションは異分野融合で起こると言われています。電子機器メーカーは電子工学、システム工学の出身の技術者の方が大半かと思いますが、OEGは、分析や解析を行う関係で、電子工学やシステム工学の専門家だけでなく、科学、化学の専門家も有しています。我々が抱えている技術者の多様性は、イノベーションに有効だと考えています。

この3つに焦点を当てて、OEGをどんどん成長させていきたいと思っています。

文中注釈

※1:OKIの携帯電話製造については、1985年にOKI アメリカのOKI テレコム グループで自動車・携帯電話の一貫生産を開始し、その後国内でも製造を行っていた。その後、1996年に携帯電話製造の事業からは撤退している。
※2:OKIエンジニアリングは、ISO/IEC17025に基づいた独立試験所として認定を取得している。