ソウル大の契約学科設立に立ちはだかる2つの壁

また、ソウル大での契約学科設置に2つの大きなハードルがあるという。1つ目はソウル大の教授会が、「学生を特定企業のために教えることは、ソウル大の教育哲学と伝統に反する」と契約学科制度そのものの導入に反対していること。「大学は企業の人材養成所などではなく、独自の哲学と伝統に基づいて教育課程を選択することが尊重されなければならない。人類の普遍的価値の基礎科学を教えること、そして創造的で批判的な知識人を養成することこそが大学の重要な役割である」というのが反対理由だという。SamsungとSK Hynixは、半導体契約学科新設に向けて教授らの説得を続けているほか、韓国半導体工業会(KSIA)も大学側に韓国半導体業界の深刻な人材難を伝え、その解消手段としての契約学科新設を要請しているという。

2つ目は、ソウル首都圏の大学が定員を増やすことについて法律で禁じられている点だという。現行の「ソウル首都圏整備計画法」によると、首都圏にあるすべての大学は「人口集中誘発施設」に分類され、定員増は首都圏への人口集中を減らす政策に反する違法行為となる。このため、半導体業界は、半導体立国の見地からこの規制の運用を緩和し半導体契約学科を例外扱いにして大学定員増を許可してほしいと韓国政府に要請している。

深刻化する半導体人材不足

韓国の産業通商資源部(日本の経済産業省に相当)によると、韓国の半導体業界は現在、年間1500人あまりの新規専門人材を必要としているが、国内大学の半導体関連学科の卒業生は年間650人余りで、必要人材の半分にも満たないという。しかも現場で即戦力になる修士・博士課程修了者はわずか150人程度にとどまっており、今後の韓国での半導体事業の発展が進めば、10年間で国内で不足する半導体人材は3万人にのぼるとの予想を出している。こうした背景から業界内からは、付け焼刃的な契約学科の新設では不十分で、半導体人材を十分に養成する政府レベルの高度な長期的戦略が必要だという声が高まっている模様である。

韓国では文在寅政権時代、「K半導体戦略」の一環として半導体学科の定員を増やすことを検討していたが、国家均衡発展の名分に反するという理由で検討が中断していた。しかし、大統領職引継ぎ委員会が5月3日発表した「ユン・ソクヨル政府110大国政課題」には「半導体学科定員拡大検討」が課題として記されており、韓国半導体業界からは今後の韓国政府の動きに期待する声が出ている模様である。