そして、酸素発生触媒として注目されているMoS2の層間にキラル分子を挿入することで、電流中のスピンを平行に揃える性質と酸素発生反応への触媒能を併せ持つ、キラルMoS2の合成に成功。同化合物は、挿入したキラル分子と同様に、化合物全体としてもキラルな構造を持っていることが特徴だという。
キラルMoS2中における、スピンを同方向に揃える性質(スピン偏極率)の調査から、同化合物を流れた電流の中ではおよそ75%のスピンが同方向に揃っていることが判明。この値は、典型的な磁石である金属中の値(鉄:45%、コバルト:42%、ニッケル:~33%)を大きく上回る値であることが示されることとなった。
また、この化合物を水電解における正極(酸素発生反応が起こる電極)上に塗布して調べたところ、酸素発生反応効率が、スピンを制御していない場合(キラルではない構造を持ったラセミMoS2の場合)と比べて、約1.5倍に向上することも確認されたとする。
さらに、副生成物である過酸化水素の生成量はスピンを制御していない場合に比べて70%以上抑制されており、電流中のスピンが同方向に揃っているという性質が過酸化水素の生成を抑制し、酸素発生反応効率を向上させていることも判明したとする。
なお、今回の研究でポイントとなったスピンの制御は、既存の電極や触媒中にキラルな化合物を組み込むというシンプルな手法によって実現可能であることから、研究チームでは、今回の研究で使用されたMoS2に限らず、さまざまな電極や触媒にも同原理を適用することが可能であり、酸素発生反応効率向上の汎用的な指針となる可能性が期待されるとしている。