その結果、磁気光学材料の誘電率が低下するにしたがって、カイラルエッジ状態が存在し得る波長幅が大きく拡大することが見出されたという。特に、ENZ領域である誘電率0.01を持つ磁気光学材料の場合には、その波長幅は光通信波長1550nmにおいて約70nmとなることが判明。この帯域は、別の構造において過去に光通信波長で報告されている値の1000倍以上に相当するものだとする。
また、同構造を用いて構成した導波路構造について分散曲線の計算から、波数ゼロに対して非対称な分散曲線を持つカイラルエッジ状態が確かに存在することも確認されたとするほか、カイラルエッジ状態を用いた導波路における光伝搬の様子のシミュレーションにより、欠陥があっても反射なく光が導波すること、磁気光学材料の誘電率が小さい場合にその安定性が向上することも示されたとする。
これらの結果は、ENZ特性を持つ磁気光学材料の活用により、広帯域で動作可能で、揺らぎや欠陥に強く一方向に光を導く導波路の実現が可能であることを示すものだという。研究チームでは、この特性を実現する材料の開発にすでに着手しており、初期的な結果を得ることに成功しているとした。
なお、今回の研究成果の活用により、一方向性光導波路の実現が期待されるという。この導波路では一方向への光伝搬のみが許されるため、小型高効率なアイソレータに応用することが可能だとする。さらに、構造の揺らぎや欠陥があっても反射が抑制されるため、安定に動作するレーザーの実現も可能になるとするほか、これらデバイスは超高密度・高機能な光回路、それを活用した光配線技術や光量子技術の高性能化の実現にも貢献することが考えられるとしている。一方、学術的には、トポロジカルフォトニクス研究の進展に寄与するとともに、近年注目を集めつつあるENZフォトニクスの新たな展開のきっかけとなることが期待されるとしている。