すべての炭素質隕石から核酸塩基が検出され、その濃度は最大で隕石1g当たり72ngだったという。3種の隕石の中では、特にマーチソン隕石が核酸塩基の種類・量ともに豊富で、これまでに未検出の10種を含む18種類が検出されたとする。
さらに、核酸塩基以外の窒素複素環化合物も20種類同定され、その大半が今回の研究で初めて隕石中から検出されたものとなるという。隕石中の核酸塩基類の分布は太陽系形成前の星間分子雲で生成する核酸塩基類の分布と共通点が多く、少なくともその一部は太陽系形成前の光化学反応で生成したと考えられるという。
それに加え、DNA/RNAに特徴的な「二重らせん構造」形成に不可欠な塩基対(A-T、G-Cなど)が炭素質隕石から検出されたほか、近年発見された新しい塩基種であるZ(ゼット)塩基の基本構成である「ジアミノプリン」の存在も確定され、定量的な評価にも成功したとする。これらの観測結果は、生命誕生前の地球上でも、普遍的に地球外からDNA/RNA形成に不可欠な成分が供給されていたことを示唆するものであると同時に、地球上での初生的な遺伝機能発現への寄与を期待させるものだと研究チームでは説明している。
炭素質隕石中には数万から数十万種もの多様な有機化合物が存在するといわれているが、中でも核酸塩基類は生命との関連が期待される化合物の1つとされている。純然な物質進化の過程にあった初期地球に供給された後、どのようなプロセスを経験するのか、そして核酸形成の材料となりうるのか、今後の研究で明らかにしていく必要があり、それは同時に、地球外物質による有機化合物の供給と生命の起源に関する仮説の検証にもつながるとする。また、隕石中核酸塩基の生成メカニズムを検証していくことで、地球外環境から地球上での生命誕生に至るまでの分子進化の全容解明に近づくことになるともしている。
特に、今回の研究で確立された核酸塩基の超高感度分析法は、2020年末に地球に帰還した炭素質小惑星リュウグウサンプルの詳細分析や、「OSIRIS-REx」によって2023年に地球に帰還予定の小惑星ベンヌサンプルにも適用可能であり、それら2つの太陽系天体の直接的な現場検証を通して、地球や海が誕生する前の有機的な物質進化の理解が、飛躍的に前進することが期待されるとしている。