SoCレベルでは、CPUコア、GPU、ディスプレイ、各種I/Oやファブリックに領域を細分化し、電力制御をきめ細かく行うように改善されている。また、漏れ電流を減らす回路構成や、電力スイッチングの速度の向上など細かいところにも気を使っている。

  • SoCアーキテクチャの改善

    図5 SoCアーキテクチャの改善。SoC全体の電源系を右側の図のような分割に改善。SoC全体のSAVE-RESTOREの高速化、クロックやパワーゲーティングの改善、メモリコントロールやEDCコントローラの新設計を行っている。また、Light C-stateを設けて電力低減。GPUのバンド幅をスループットに合わせて割り当てし、CPUのバンド幅もGPUとのバランスで決定なども行っている

さらに、Infinity FabricのC-Stateの拡張、SoCの電力分割(Z10、Z9ステートの新設、DRAMセルフリフレッシュ)、低電力設計(6nmプロセスの採用、6nmプロセスに最適化したデザインライブラリ、低電力レイアウトとパッケージング)、すべてのユニットでスリープステートへの出入りの高速化、プラットフォーム全体ではLPDDR5 DRAMの採用、1W以下のディスプレイのサポート、パネルのセルフリフレッシュ、パネルのデルタリフレッシュなどを取り入れて低電力化を行っている。

  • SoC全体の新規なパワーアーキテクチャ

    図6 SoC全体の新規なパワーアーキテクチャ。Ryzen 6000ではInfinity FabricのC-Stateの拡張、SoCの電力分割、6nmプロセスを使う低電力設計、スリープステートとの出入りの高速化、ディスプレイの変化部部だけのリフレッシュなどでプラットフォームレベルでの電力低減などを行っている

システム全体のソフト面では新しい電力制御アルゴリズムが組み込まれており、ユーザの使い方に応じて性能、電力、冷却、ファン騒音などを調節する。一般的にはバランスしたプロファイルを使うが、使用状態に合わせて静かなプロファイルや高性能プロファイルに移行して使用状態と合わせる。

  • システム全体でユーザの使い方に応じて性能、電力、冷却、ファン騒音を調節するフレームワークを備えている

    図7 システム全体でユーザの使い方に応じて性能、電力、冷却、ファン騒音を調節するフレームワークを備えている

システム全体の電力制御の効率化と言う点では新しいZ-Stateを作り、パネルのセルフリフレッシュ機能を利用して、画面の書き換えが減って来ると、ディスプレイコントロールの消費電力を減らしている。

表示パネルの消費電力は比較的大きいので、表示パネル側にメモリを持ち、絵が変わらない部分は毎フレーム書き換え情報を送らないというのがPanel Self Refresh(PSR)であるが、これを色々な場面で使って電力を削減する機能が設けられている。ただし、この機能を使うにはPSR機能を持ったディスプレイが必要である。

  • 消費電力の大きいディスプレイの省電力化

    図8 消費電力の大きいディスプレイの省電力化。パネルセルフリフレッシュをうまく利用する設計になっている

このように、Ryzen 6000では電力制御を徹底した点をアピールしているが、AMDの電力制御が特に優れているというわけではなく、全体的にはIntelの最新モバイルプロセサと同程度の電力に追いついたというレベルであると思われる。

Ryzen 6000で面白いのは、Active Audio Noise Cancellationという新機能が付いている点である。図の説明によると、オリジナルのサウンドにサイレンの音や赤ん坊が大声で泣いていたりと言う雑音が重畳していても、それらの雑音をAIでフィルタしてドラマチックに低減してくれるという説明図が描かれている。

Zoomの電話会議をやっているときに、ハイレベルの雑音がはいるというようなシチュエーションでは役に立ちそうな機能であるが、PSRディスプレイは持っていないし、Cool Chipsの予稿集のpdfではデモは動かないので、残念ながら試すことはできていない。また、理由は不明ながら、この機能はOEM用のシステムのみの限定提供だという。

  • AIでサイレンや赤ん坊の泣き声などのノイズをキャンセルするというActive Audio Noise Cancellation

    図9 AIでサイレンや赤ん坊の泣き声などのノイズをキャンセルするというActive Audio Noise Cancellation