具体的には、未加工試料では、引張ひずみに対して一様な大きさの吸熱(約-0.2℃)が生じるが、それに対して切り紙加工が施された試料では吸熱と発熱が同時に生じ、未加工試料よりも大きな温度変化(約-0.4℃)が特定の場所で観測されたとする。これは、試料内部に生じている応力分布が反映されたためで、未加工試料では内部応力の大きさは一様であり、その方向は常に引張ひずみ方向と一致する一方で、切り紙加工が施された試料では、応力集中・分散点が周期的に分布し、内部応力の方向も一様ではなく場所に依存して引張または圧縮方向に作用した結果、吸熱箇所と発熱箇所が同時に生成され、特定箇所応力集中点では温度変化量が増強されたとしている。
また、弾性熱量効果においては、生じる温度変化量に加えて、ひずみを与えるために必要な引張応力の大きさも重要になるとされている。割れ物の緩衝材として利用される切り紙状に加工された紙や発泡プラスチックのように、普通はまったく伸びない材料でも、切り紙加工が施されることにより小さな力でもよく伸びるようになるが、今回の実験においても、切り紙加工が施された測定試料では、同じ距離だけ伸ばすのに必要な引張応力を小さくできるという結果が得られたという。
さらに、局所的な温度変調応用の可能性の検討に向け、応力集中点における局所加熱/冷却能(試料に1%の引張ひずみを与えた際に生じる特定箇所における温度変化量を、そのひずみを生み出すのに必要な引張応力で割った値)の計算が行われたところ、切り紙加工のポリスチレンシートにおける値は、未加工の場合より大きいだけでなく、最も有望な材料候補と考えられてきた形状記憶合金を超える値に達していることが確認されたという。
なお、研究チームによると、今回の成果の根幹を担う切り紙は、さまざまな物質に対して適用可能な加工技術であり、多彩なデザインを可能としている。例えば、ひずみに対して異方性を持つ物質に適用すると、ひずませる方向に応じて吸発熱分布がさらに変化するとしているほか、さまざまな物質に伸縮性・柔軟性を与えられるため、曲面にも取り付けることも可能なフレキシブル温度変調素子への展開につながる可能性があるという。
そのため研究チームでは今後、切り紙を念頭においた弾性熱量効果物質の探索や切り紙デザインの検討を多種多様な観点から行うことで、高効率な熱エネルギー利用素子の開発を目指していくとしている。