オバレン単分子膜は、有機溶媒中に溶解したオバレン溶液に金単結晶基板上を所定時間浸漬することにより作製。その後、電気化学トンネル顕微鏡を用いて、水溶液中にて電極表面での構造のナノスケール観察が行われたほか、この溶液中に所定電位でチオール分子を投入して、観察を行ったという。チオール分子はイオウと金や銀などと化学結合を形成し、自己組織化単分子膜を形成することで知られている。

  • オバレン分子の構造式

    (左)上は、オバレン分子の構造式。下左は、金単結晶表面に吸着したときに形成される単分子膜の高解像EC-STM像。下右は、その吸着モデル構造。形成された単分子膜では、隣り合うオバレン分子が60度ずつ回転している。(右)左は、チオール分子の自己組織化単分子膜。右は、オバレン単分子膜の空隙にチオール分子一分子が孤立して吸着したときに得られたEC-STM像。両画像の下にあるのは、その模式的なモデル図 (出所:プレスリリースPDF)

これらの観察の結果、酸性溶液中、電極の電位によってオバレン単分子膜の構造が変化することが突き止められたという。1つ1つのオバレン分子が明瞭に解像されており、注意深く観察すると、隣り合うオバレン分子が60度ずつ回転していることが確認されたとする。この規則的な回転によって、オバレン分子3分子が形成する、およそ0.3nmというナノスケールの空隙が形成され、この空隙のサイズは金原子1個分であり、チオール分子のイオウ部位が吸着するのに適したサイトとなり、ここにチオール分子が1分子だけ吸着するという。

  • 今回の研究で得られた概略モデル図

    (左)今回の研究で得られた概略モデル図。3つのオバレン分子で囲まれたナノスケール空隙にチオール分子1分子が孤立して吸着する。(右)オバレン単分子膜の空隙にチオール分子1分子が孤立して吸着したときに得られたEC-STM像の拡大図 (出所:プレスリリースPDF)

吸着率の差はあるが、チオール分子の末端にカルボン酸、ピリジン、ピラジンといった機能部位を有する分子群はいずれも等間隔で孤立した状態が示されたとしている。これは、物理的な吸着で形成されるオバレン単分子膜と金とイオウの結合形成による化学吸着が、バランスされた結果得られた共吸着構造といえると研究チームでは説明している。

なお、今回の研究成果は、原子や分子1つ1つから物質や構造を任意に作り上げていく「ボトムアップ」式の構造制御によるものであり、研究チームでは、今回の研究からは基礎物性の1つが見出されたにすぎないとするが、見方を変えれば「1分子を捕捉する究極のセンサ」ともいえるとしているほか、孤立化された分子物性の解明をはじめ、その精密な分子デザインにより分子レベルのパターニング、3次元ナノ構造体形成のための土台として、新たな電子デバイスへの展開が期待されるともしている。