電流のパルス幅が100nsより長い場合、磁化は熱揺らぎによるアシストを受けるため、Jthoよりも小さい電流密度で反転。熱揺らぎによるアシストの領域の電流密度が外挿されたところ、Jtho=2.5×106万A/cm2が得られたとした。

一方、パルス幅が10nsよりも短い場合には、必要な電流密度はパルス幅と逆比例して急増し、Jthoよりも高くなり、この超高速領域が外挿されたところ、Jtho=4.1×106A/cm2が得られたとした。

どちらのJthoの値もこれまで研究されてきた重金属のJthoより2桁小さく、これらの結果により、トポロジカル絶縁体を用いることによって超高速磁化反転に必要な電流密度を低減することに成功したとしている。

  • 超高速磁化反転を実証するための膜構造

    (a)超高速磁化反転を実証するための膜構造。(b)今回作製された素子。(c~f)パルス幅1~4nsのパルスナノ秒電流を掃引したときの磁化反転。(g)3nsの正負のパルス電流(1.3×107A/cm2)をBiSbに連続的に印加したときの磁化反転。(h)1nsから1msまで、さまざまなパルス電流を印加したときの磁化反転に必要なしきい値電流密度 (出所:東工大プレスリリースPDF)

なお、今回作製された素子では、サイズが約1000nm×800nmと比較的大きいにもかかわらず、低電流密度で1~4nsの磁化反転を実現できたことから、素子サイズを90nm以下に微細加工すれば、低電流密度で200psの超高速磁化反転が期待できると研究チームでは説明している。この値は、現在使われているSRAMと並ぶ速さであり、研究チームでは今回の成果について、将来的に半導体回路のキャッシュメモリを不揮発化させることで、ICT機器の低消費電力化につながるものとなる可能性があるとしている。