現場の意見を取り入れて開発した「ノータッチステイサービス」
LINEを採用した点について、専用アプリを使わないため、LINEを使っている人なら新たなアプリのインストールが不要で、手間がかからない点を富士通側ではメリットとして上げる。スマートフォンユーザーにおいて「9割近い導入率」(富士通)というLINE上でサービスが利用できるため、「より早く、より低コストで提供できる」(同)というのが強みだ。
加えて、ホテルの公式アカウントから通知を送ることができる点を重視したという。メールやSMSに比べてLINEの通知は開封率が高く、利便性が高いという点がポイントになったそうだ。
尾道国際ホテルは、もともと富士通のGLOVIA smart ホテルを採用。ホテル業務のデジタル化を進める中で、今回のノータッチステイの開発に参画。アジャイル開発の手法を取り入れて開発されたノータッチステイサービスのため、開発途中で尾道国際ホテル側の意見をもらうなどして「現場の意見を吸収しながら作り上げた」(同)という。
GLOVIA smart ホテルはスタッフが使うためのサービスだが、ノータッチステイは宿泊者も使うため、ホテル利用者も意識して画面設計をする点などで苦労したという。そこにはホテル側の意見も参考にしていったそうだ。
顧客台帳の電子化によるメリットも
こうしてノータッチステイサービスの導入に至った尾道国際ホテルだが、寺岡氏は、「コロナ禍で非接触・非対面、ロビーの滞在時間の短縮をしたかった」と話す。加えて、宿泊者が減ったことで出勤スタッフの数も減らさなければならず、オペレーションの変更が必要になったため、従来のスタッフの業務を削減しつつもサービスを低下させないための施策を検討していた。
当初は、GLOVIA smart ホテルと別のスマートチェックインサービスを連携することも検討したそうだが、「開発コストがかかり、連携も難しい」ということから、その代案として富士通が開発を行っていたノータッチステイサービスの話を聞いて、開発に参画したそうだ。
リリースはしたものの、まん延防止等重点措置が続き、まだ利用客が少ないために「省力化、接触機会の削減が実現できているかは分からない」と寺岡支配人。ただ、利用客がQRコードリーダーにスマートフォンをかざせばチェックインが済み、カードキー発行業務だけになるので、利用者が増えれば望んだ効果が出てくると期待する。
現時点では、専用の予約のみにしか対応していないが、寺岡支配人はツアーや電話予約でも対応を広げたい考えだという。
ホテルでは、宿泊者が記載するレジストレーションカードを保管する義務を負っている。そのまま紙で保管すると劣化するし場所も取るので、これまではスキャンしてデータ化していたという。このスキャンの手間がかかっていた上に、顧客台帳としてExcelファイルなども作成。ホテルが導入したシステムとは別に使っていたため、業務が煩雑化しているという課題もあった。
ノータッチステイのメリットは、こうしたレジストレーションカードのデータ化の手間が省けて、顧客台帳の管理も統一できるという点だ。さらに、チェックアウトも非接触・非対面が可能になるというのもメリットだ。宿泊の支払いは事前にオンラインで行うことができるため、なにもなければそのままカウンターのQRコードリーダーにかざすだけでチェックアウトできる。
館内設備を利用した場合、例えば、レストランの朝食を追加した場合も、ノータッチステイ上で請求が表示され、そこで精算をすれば支払いが完了するので、チェックアウト時はそのままQRコードをかざすだけで済む。
今回のノータッチステイサービスは、LINEを使うことから基本的には日本人向けのサービスとなる。開発自体は2019年から始まっていたため、当時はインバウンド需要が拡大していたことから、LINE以外のメッセージアプリへの対応も検討していたという。コロナ禍の現在はインバウンドを想定していないが、今後インバウンド需要が復活した際には、海外向けにメッセージアプリの対応を検討していく考えだという。
尾道国際ホテルでは、ノータッチステイサービスでカウンターの受付時間が削減されれば、宿泊客の案内などにより対応しやすくなることも想定。コスト削減だけでないメリットに期待を寄せていた。