今年1月、NTTデータが開催したカンファレンス「NTT DATA Innovation Conference 2022」において、ゆうちょ銀行のDX(デジタルトランスフォーメーション)を紹介する「Open Service Architecture」で実現される金融機関の”両利きの経営”~ ゆうちょ銀行のDX事例に見る事務改革の現実解 ~」という講演が行われた。
ゆうちょ銀行は以前から続いている外部環境の変化とコロナ禍で加速する変化に対応するため、安定と変革の両立を目指し、デジタル化に取り組んでいる。本稿では、同行のデジタル技術を活用した事務改革と顧客接点改革についてお届けする。
預貯金照会の自動化で対応時間を8割削減
ゆうちょ銀行 事務企画部 担当部長の北野義人氏は冒頭、「ゆうちょ銀行は約1.2億口座と190兆円の預金量を抱えており、多くの人の生活基盤を支える巨大なタンカーだ思っている。伝統的金融機関として、安定と変革の両方が必要と考えている」と語った。
中小企業や高齢者など幅広い顧客層を持つ同行としては、急激な変化を起こすことは困難であり、「現実的な舵取りを行っていく必要がある」と北野氏は述べた。同行は中期経営計画において、デジタル技術を活用した業務改革と生産性向上を掲げている。
具体的には、窓口にはタブレットを導入してセルフ処理の環境を整備し、ユーザー側にはスマホアプリを用意してセルフ処理によって完結させることで、事務作業の省力化を進めている。貯金事務センターでは、AI-OCRやRPAの利用を拡大し、BPMS(Business Process Management System)を導入することで、自動処理の範囲を広げることを計画している。BPMSとは、ワークフローを自動管理・実行するシステムだ
RPAは2019年1月から利用を開始し、2021年9月時点で39の業務に適用している。今後、複数のRPAとBPMSを組み合わせることで、工程全体の管理を最適化していくという。
BPMSについて、「コントロールタワーのような役割を果たすことを期待している。汎用ソリューションをなるべくカスタマイズしない形で利用し、BPR(Business Process Reengineering)と合わせて行うことが重要」と北野氏は説明。BPMSは2月から一部業務で活用を開始、本格展開は今後予定しているという。
加えて、1月から「PipitLINQ」というサービスを本格的に立ち上げて、行政機関による預貯金照会の自動化にも取り組んでいる。NTTデータが提供する電子化プラットフォームの活用により授受をデジタル化し、基幹システムにおいては、調査・回答作成を原則自動で行う機能を開発した。これらにより、国税庁やNTTデータなどとのPoCでは、1件当たりの対応時間を8割削減できたとのことだ。
北野氏はこうした業務のデジタル化ポイントについて、次のように説明した。
「他のステークホルダーとの協力・共創に加えて、汎用ソリューションの活用が重要だと思う。というのも、技術進化が速いので、自前ではついていけないからだ。APIなどの接続基盤の整備も必要になってくる。また、既存のアセットとデジタル技術を組み合わせることが、過渡期における現実的な対応となる」