続いて、コクヨの情報システム部に所属する山本優子氏が、同社の「デジタル推進タスク」の取り組みについて述べた。この取り組みは、2020年に情報システム部内のセミフォーマルな活動として開始したものである。

「デジタル推進タスク」は、会社全体がデジタル技術を活用しながら事業領域の拡大を目指す中で、「情報システム部はその中心で変革に関わりたい」という思いから立ち上がった企画だ。同社の実験カルチャーにならい、まずは自分たちがデジタル技術を体験しながら実務に生かす経験を創出する狙いがあるという。

  • コクヨ 情報システム部 山本優子氏

活動を開始した2020年には、情報システム部に所属する約60名のうち12名が希望し参加した。同年はG検定、E検定、データサイエンティスト検定といった資格の取得支援や、AWS環境構築などの内製化のスキル開発、統計学をはじめとするデータ分析手法の修得に取り組んだ。メンバーレイヤーのデジタルスキル向上を図ったという。

2021年にはAWSクラウドのAI(Artificial Intelligence:人工知能)サービスを使ってプロト開発に着手している。1年目に学んだことを実践するために挑戦したとのことだが、当時のメンバーは実務でのプログラミング経験はなく、AWSクラウドを触るのも初めてである。

しかし実際に開発を進めると、3カ月間のうちに個人の顔を識別可能な顔認証システムや表情分析システム、会議の音声をワードクラウド化するシステムなどの実装に成功している。これらのプロトタイプは、専用サイトを通じて社内にも共有している。

試行錯誤しながらも自分たちの手でプロト開発に取り組んだことで、大きな成功体験が得られたそうだ。山本氏は次のステップの課題として、「プロト開発できることは分かったが、実際にどのように業務に生かせるのかがわからない」点を挙げた。

  • デジタル推進タスクのあゆみ

そこで山本氏らは、システムを作る人だけでなく、事業部側のシステムを使う人も巻き込んだ施策が必要だとして、人事部と連携し「ITリテラシー向上プログラム」の展開に向けて活動を開始した。同プログラムでは、デジタルテクノロジーを活用して新たな顧客体験価値の創造や業務プロセスの変革に向けた取り組みを実施するのだという。

プログラム受講者の内訳を見ると、86%が事業部門の社員である。25歳から34歳の社員が約半数を占めるが、中には40代から50代の受講者もいる。中高年層の社員がこのプログラムに興味を持った背景には、「顧客対応の中で必要に迫られている」「現場で対応が求められている」といった声も多かったとのことだ。

プログラムの具体的な取り組みは、資格試験の勉強に必要となるテキストやe-learningの提供、社内サイトでの学習コンテンツ配信、勉強会の運営などだ。初学者向けに、社員がオリジナルのコンテンツや解説記事を作成したそうだ。

  • ITリテラシー向上プログラムの実施内容

プログラムの結果、G検定の合格率は93%に達し、ITパスポートの合格率も71%に上る。「この機会がなければITについて学ぶ機会がなかった」「上司や周囲のメンバーにもプログラムを受けさせたい」といった声もあり、85%がITリテラシーの向上につながったと回答している。

山本氏は2022年の取り組みについて、パッションゲート(社内展示会)を紹介した。情報システム部内で作成したプロトタイプを専用サイトで社内に公開したところ、開発部から「商品開発にアイデアを生かせるのでは」といった声を受けたとして、両部署で展開する予定だ。

  • ITリテラシー向上プログラムの実施結果