フードデリバリーのDoorDashは、2021年6月に国内参入して以来、宮城県仙台市を皮切りに岡山県、埼玉県、北海道札幌市など46都市へと配達エリアを拡大してきた。他社とは異なり、まずは地方から展開することで、さまざまな都市において需要の掘り起こしとサービスの向上を図っている。

国内では独foodpandaが日本市場撤退を決め、出前館が攻勢を強めるなど市場環境も変化している中、後発であるDoorDashはどう市場を勝ち抜くのか、日本代表の山本竜馬氏に話を聞いた。

  • DoorDash 日本代表 山本竜馬氏

学びを得るため性格の異なる地域へ進出

DoorDashは参入当初、仙台駅を中心にサービスを展開。現在では宮城県内の塩竈市、石巻市など、相対的に人口の少ない都市にもサービスを拡大している。同様に、岡山県の倉敷エリアは「小さな都市ではないが、デリバリーという文化は浸透していない」という土地柄で「競合がいない」ということから進出。こうしたエリアでどのような取り組みが必要かを見極めるために展開したという。

大都市として選んだのが埼玉県だ。デリバリー事業者の競合も多く、人口も多い。埼玉県は地続きで都市が広がっていることから、東京のような大都市圏にもつながるため、今後の展開を占う意味でも戦略的な位置づけにある。

続いて11月にサービス展開を発表した札幌市は、雪のシーズンでもあり、配達員の確保や配達の状況を確認するために参入したという。こうして、性格の異なる4つの都道府県に展開したことで、「いろいろなことを学べた」と山本氏は振り返る。

日本オフィスとしては、従業員も増え、配達員の確保や配達時間を守るといった基礎的なオペレーションも確立されてきたという。

地方へのデリバリー文化定着を目指す

地方は競合が少ない反面、デリバリーニーズも大都市圏に比べて相対的に低い。山本氏によれば、仙台や埼玉、札幌には競合も複数あり、デリバリーの文化は醸成されており、「デリバリーニーズは高く、一定量のボリュームは確保できた」(山本氏)という。

ただ、やはり倉敷エリアは「想定通りだがボリュームは小さい」そうだ。配達員が数人でも1日の注文をカバーできるため、「ボリュームの小さいことを良しとはしていないが、エコシステムは回っている」と山本氏。注文が一定数あり、それに対して配達員が過剰でなければ、「小さな街でも、エコシステムが回る限りはビジネスとして回る」という判断だ。

仙台市以外の宮城県内では、例えば石巻市も1日の注文は少なく、少人数の配達員でまかなえているそうで、山本氏は「小さなエコシステムが回っている」との認識を示す。

注文数は少ないとはいえ、「都市に比べて、地方が1オーダーあたりのボリュームが低いというわけではない」と山本氏は話す。都市部の駅周辺と郊外エリアが近接する仙台市の分析では、駅を中心としたオーダーと郊外のオーダーでは、郊外のほうが単価が高いことが分かった。一定のボリュームで注文されることが多く、単価の上昇を後押ししているようだ。

新型コロナウイルスの影響もある。都会では人口が多いために外食ニーズも一定数あるが、倉敷エリアなどでは緊急事態宣言によって街がひっそりするほど人流が減り、そうした土地ほどデリバリーの必要性は感じてもらえているという。

フードデリバリーの存在が広まるにつれ、「特別感」が減ってきているのも追い風だ。「外食だって昔は特別感があった」と山本氏。そうした食事文化の変化によって外食や中食が一般化してきたが、「デリバリーも基本的にそうなるし、一部ではそうなっている」(山本氏)。とはいえ、これがまだ地方までは波及していないため、広報活動も重視するそうだ。

例えば地方の加盟店とともに、利用者の利便性だけでなく、加盟店にとってもデリバリーが助けになっている点をアピールすることで、加盟店拡大と利用者の拡大を狙う。「地方でのデリバリー文化の定着は一つの大きな課題として取り組んでいる」(山本氏)

2021年について、山本氏は「成果は非常に感じている」と振り返る。倉敷エリアでも、現在は安定してオーダーが入るようになり、利用者の定着も始まっている。定着する利用者をどのように増やすかを模索している段階で、大手チェーン店と配達無料キャンペーンを行うなど、裾野を広げる施策も打ち出しているという。