2022年、宇宙航空研究開発機構(JAXA)の「OMOTENASHI」と東京大学の「EQUULEUS」という2機の超小型探査機が月へと向かう。

アメリカ航空宇宙局(NASA)の大型ロケット「SLS(Space Launch System)」の試験打ち上げに同乗する2機は、キューブサットと呼ばれる10cm立方の規格で6つ分、重量は10~14kgほどだ。このサイズでも月面着陸と観測データの地球への送信、超小型エンジンによる月の向こう側への飛行や月の観測が可能になる。

超小型衛星が科学でも民間宇宙ビジネスでも利用が進む中で、信頼できる部品・コンポーネントの供給が求められている。

JAXAは“革新的衛星技術実証プログラム”や“小型技術刷新衛星研究開発プログラム”などを通じて新たなコンポーネント開発を支援しているが、NASAは「今すぐ使える部品がほしい」という要望にも応える最新技術のカタログを公表し、開発や品質の高いコンポーネントの認知向上を支援している。

NASAによる「State-of-the-Art of Small Spacecraft Technology」(以下、「小型衛星最新技術レポート」)は、米国だけでなく世界のメーカーの衛星向け技術情報が並び、日本の企業の製品も取り上げられている。メーカー名と型番が一覧表示されており、衛星開発者が今すぐにも注文できそうだ。

小型衛星最新技術レポートは、小型衛星の増加を受けて2013年から2~3年に1回発表されている。2020年、2021年は連続して発行され、需要と関心の高まりがうかがえる。

「NASAに評価されたメーカーの衛星技術」といえば信頼性が高まることは想像に難くない。2020年版、2021年版の同レポートに紹介された日本メーカー5社に、製品と掲載の意義について聞いた。

中には、地上向けの製品がNASAに見いだされ、宇宙用として評価されていたメーカーもあるから驚きだ。

小型衛星の定義と評価方法

「小型衛星」の定義は世界でいくつかあり、統一はされていない。小型衛星最新技術レポートでは、米空軍のロケット搭載用アダプター「ESPA」に収納できる180kg以下の衛星を小型衛星とし、さらに重量によって5つのクラスに分類している。

ミニサテライト:重量100~180 kg
マイクロサテライト:重量10~100 kg
ナノサテライト:重量1~10 kg
ピコサテライト:重量1~0.01 kg
フェムトサテライト:重量0.01~0.09kg

OMOTENASHIやEQUULEUSは、10cm立方のキューブサット6個分(6U)の大きさで、重量の分類ではマイクロサテライトに入る。キューブサット3つ分(3U)、1つ分(1U)の衛星はおおむねナノサテライトになる。

NASAでは、この小型衛星の範囲に入る衛星の部品・コンポーネントの情報を「公開情報(論文、プレスリリース、企業Webサイト)」から入手して評価している。

NASAが提唱する9段階の技術評価基準「技術成熟度レベル(TRL)」で5以上を「最先端」と定義、ラボ環境での試験段階よりも開発が進んでいるものとしている。

日本の宇宙開発史を支えるメーカーから初登場のベンチャーまで、NASAが見出した日本企業5社

小型衛星最新技術レポートは衛星のコンポーネント別に、「衛星プラットフォーム」、「電源」、「通信」など12の章に分かれている。2020年版、2021年版と登場順に紹介していこう。

明星電気

2020年版と2021年版の第5章「航法誘導制御」に明星電気が登場。日本初のロケット搭載電子機器メーカーとして宇宙開発に関わり、65年以上の実績を持つ企業だ。

2021年11月に打ち上げられたJAXAの革新的衛星技術実証2号機には、ベトナムと共同開発の3Uサイズのキューブサット「ナノドラゴン」にオンボードコンピュータを提供しているほか、打ち上げロケットのイプシロンにも部品が搭載されている。

小型衛星最新技術レポートでは、ナノサット向けの姿勢制御装置「磁気トルカ」と「磁気センサ」が掲載された。

NASAに評価されたポイントとして、明星電気は2015年に参加したNASAの磁気圏観測計画「MMSミッション」を挙げている。JAXA 宇宙科学研究所とともにプラズマ計測器の一部を製作した実績が評価されたようだ。

明星電気の担当者に製品についてや、掲載の意義について聞いた(以下担当者コメント)。

「(NASAの小型衛星最新技術レポートに掲載された)磁気センサは、3軸方向の磁場を計測し衛星の姿勢状態をモニタするための基本計器です。この磁気技術を応用して製作されたのが磁気トルカで、概ね100kg級以下の衛星の姿勢を電磁石と地球磁場との作用を利用して3軸に搭載し制御するための計器で、極端に言えばこの2つの機器があれば粗精度の衛星制御が可能となります。

開発経緯は、科学観測ミッション機器として地球磁場、他の惑星磁場観測のセンサ開発で培った技術を衛星バス機器に応用したものですが、2010年ころからの超小型の地球観測衛星の市場拡大で、大学衛星などで必要としていた小型、軽量、安価かつ信頼性がある計器を提供し衛星開発の普及に弾みをかけたいと考えていて、JAXA若手メンバーと共同開発(SDSシリーズ衛星)で、民生品(COTS)をベース用いて構築し放射線耐性も確保した製品です。現在でも大学以外に衛星開発メーカからの製作依頼が継続しています。

MMSミッションで米国から直接受注した観測機器があり、各種審査会で来日したNASA担当と本機器について開発経緯、機能性能搭載実績などを説明、議論した結果、この基本機器の価値について理解を示し十分に搭載に耐えうると判断され掲載していただくことになったと記憶しております。なおMMSミッションの観測機器開発は、東日本大震災前後だったこともあり、電力供給停電があったので発電機を無償で提供頂いて感動したことを覚えています。」

  • 明星電気

    明星電気の磁気センサ(左)と磁気トルカ(右)(提供:明星電気)