新たなるニュートロン
そして今回、ベック氏は、設計を刷新した新たなニュートロンを公開した。
打ち上げ能力は以前の設計と変わらず、1段目を回収する場合は地球低軌道へ8t、回収せず使い捨てる場合は最大15t。また火星や金星へは1.5tだとしている。初打ち上げは2024年を予定している。
逆に大きく変わったのは姿かたちである。従来のニュートロンは、1段目に再点火可能なロケット・エンジンや着陸脚をもち、垂直に着陸して回収、再使用することができる、一見するとファルコン9を少し小さくしたような、あまり目新しい点のないロケットだった。
ところが、今回明らかにされた新しいニュートロンは、非常に独創的な姿かたちをしている。全長は40m、直径は7mで、機体はやや寸詰まりの、そして末広がりの円錐台形状をしている。たとえるなら、古代エジプト神話のメジェドのような姿といえよう。
このような独創的な姿かたちをしているのは、第1段を効率よく再使用し、迅速かつ低コストでの打ち上げを可能にするためだという。ベック氏によると、この形状により、複雑な機構や着陸脚を装着することなく、安定して着陸させることができるとし、さらに、自らの機体でしっかりと立って離陸することができるため、発射台や打ち上げ前のロケットを支える構造物などの射場インフラが不要になるという。
スペースXのファルコン9は、打ち上げには大掛かりな発射施設が必要であり、第1段の回収時にも専用の船や着陸場を必要とする。しかし、ニュートロンはそうした発射、着陸にかかる施設を必要とせず、さらに着陸後は整備のうえ、そのまま再度打ち上げることができるため、施設設備の運用や維持にかかるコストが低減できるとしている。
また、ロケットが2段式である点は従来と同じではあるものの、通常のロケットのように第1段の上に第2段があり、その上にフェアリングと衛星が載るという構成ではなく、フェアリングは第1段の上に装着しており、さらに通常のロケットのように分離するのではなく、第1段にくっついたままで、チューリップの花びらのように開き、第2段を放出したのち、閉じるような構造になっている。同社では「Hungry Hippo(お腹をすかせたカバ)」と呼んでいる。
ベック氏によると、第1段機体とフェアリングをいっしょに回収、再使用できるようにすることで、打ち上げ回数の高速化が可能だという。ファルコン9のフェアリングは分離式で、海上に着水したのち、船で回収して再使用しているが、ニュートロンではその必要がなくなり、低コスト化、またフェアリング回収の信頼性の向上などが図れるとしている。
フェアリングの直径は5mで、現在ある衛星の大半を搭載することができる。
さらに、第2段は完全にフェアリングの中にあり、宇宙空間に到達してから展開される。そのため、空力を考慮することなく、最初から宇宙で稼働するような設計、構造にできることから、軽量化・高性能化が可能だという。
くわえて、機体の全体には炭素繊維複合材を採用。軽量で強度が高いうえに、打ち上げと大気圏再突入時に受ける膨大な熱と力に何度も耐えられる特別な配合の新素材を使うとし、第1段の頻繁な再打ち上げを可能にするという。また、製造には自動積層システム(automated fiber placement system)を使い、数分で数mの構造を造ることができ、迅速な製造が可能だとしている。
同社はすでに、エレクトロンで機体構造を炭素繊維複合材で造ることに成功しているが、ニュートロンは世界で最も大きな炭素繊維複合材製のロケットになるとしている。
ロケット・エンジンは、新開発の「アルキメデス(Archimedes)」を搭載。液体酸素とメタンを推進剤とするガス・ジェネレーター・サイクルのエンジンで、推力は1MN、比推力は320sを発揮する。第1段には7基のアルキメデスを、第2段には真空に最適化された1基のアルキメデスを搭載するとしている。
前述のように、ニュートロンは炭素繊維複合材構造により、非常に軽量であるため、アルキメデスは性能もさほど高くなく、構造も比較的シンプルになっている。これにより、開発・試験のスケジュールを大幅に早めることができるうえに、信頼性と再利用性も追求することができるとしている。
ベック氏は「ロケットの構造質量比が悪いと、高性能なエンジンが必要です。逆に、構造質量比を高めることができれば、少し低性能なエンジンでも打ち上げが可能になるのです」と語る。
ファルコン9の弱点をつぶしたロケット
この新しいニュートロンの設計について、ベック氏は「ニュートロンはこれまでのロケットとはまったく異なります。信頼性、再利用性、そしてコスト低減への追求が最初から組み込まれた、先進的な設計の新型ロケットなのです。これまでにつちかった最高の技術革新を取り入れ、最先端の技術や材料と融合させることで、未来のロケットを実現します」と語る。
「従来のロケットの延長線として設計したのではなく、顧客のニーズに焦点を当て、そこから逆算して設計しました。その結果、市場の需要に合ったサイズで、速く、頻繁に、そして手頃な価格で打ち上げられるロケットが生まれたのです」。
ニュートロンは、その独創的な姿かたちが目を引くが、実際に注目すべきは、ファルコン9と同じ、「第1段機体とフェアリングは回収し再使用、第2段は使い捨て」を目指しながら、ファルコン9よりも効率よく、そして低コストになるようなコンセプトを志向しているところである。ロケット・ラボが“ファルコン9の弱点”を研究し、それをつぶした、後発ならではの試みといえよう。
また、ロケット・ラボはすでに、エレクトロンの第1段機体の再使用を目指し、再突入や海上、空中での回収技術を研究、開発している。そこから得たノウハウや教訓も、ニュートロンの設計に反映されているものとみられる。
他方、ファルコン9を運用するスペースXは、その発展型の後継機として「スターシップ/スーパー・ヘヴィ」を開発している。スターシップは大は小を兼ねるという言葉どおり、巨大なロケットで小型衛星から大型衛星まで打ち上げられるようにし、さらに機体をステンレスで造るなど、ニュートロンとは正反対とでもいうべきコンセプトを採用している。
また、「レラティヴィティ・スペース(Relativity Space)」という企業は、ロケット全体を3Dプリンターで"印刷"することで低コスト化を図っているほか、前述したアストラも、とにかく製造のしやすい設計を採用し、大量生産で低コスト化を目指すなど、同じ打ち上げコストの削減という目標をめぐって、宇宙企業はさまざまなやり方に取り組んでおり、技術的にも、そしてビジネス的にも、非常に興味深い展開が繰り広げられている。
参考文献
・Rocket Lab Reveals Neutron Launch Vehicle’s Advanced Architecture | Rocket Lab
・Neutron Rocket | Development Update - YouTube
・Neutron | Rocket Lab