刷新したシステムを基盤にPOSなど周辺システムもリニューアル
その後、ギフト配送システムにも拡大し、ギフトシステムと配送システムに分けてOCI上の「Oracle Database Cloud Service」で稼働させた。
DXで杉山氏らが命題に掲げたのは基幹システムの刷新だけではない。ホストの撤廃のほか、POSシステムの開発、これらと関連する周辺システムの改訂も視野に入れていた。
例えば、POSシステムの開発においては、改正割賦販売法への対応として、持ち歩きできる台湾のCastle Technologyの「Vega3000」を導入し、販売員が顧客の面前で決済を完結するようにした。
岡本氏は次のように語る。「百貨店のPOSは、値引き、割引、優待、ポイントなどさまざまなサービスを組み合わせているため、オペレーションは簡単ではありません。当時はインバウンドが伸びており、外国語に対応できる販売員でもストレスなく操作できるように、順を追っていけば完結するようにしました」
この土台があったことから、京王百貨店は業界で初めて2020年12月にAmerican ExpressのNFCタッチ決済を導入、そして2021年1月には国内QRコード決済を導入している。
プロジェクトチームは、3つの命題に加え、プラスアルファの効果も狙っていた。その一つが業務効率だ。エントリー業務は、それまで紙ベースのものも含め3種類あった形式を1つに統一した。「Kintone」を使ってワークフロー化を行い、「DataSpider Servista」を使って基幹システムに自動連携するようにした。入力間違いを入口で気がつくような形にすることで、業務に関わる人の作業をスリム化できたという。
DX推進の課題は「技術」よりも「人 」
プロジェクトは2020年6月に解散し、現在は、各現場でDXが進んでいる状態だ。振り返ると、技術よりも大きな課題だったのが人だという。「短期決戦の側面があったので、現場に納得と理解を得るところに十分な時間をかけられませんでした」と岡本氏は振り返る。
「現場の人は変化を望まないし、それまでのやり方を否定されていると感じることもあります。しかし、実際に使ってもらい、慣れてくると好評でした。トータルで見ると新しいやり方がいいというところに落ち着きますが、そこに至るまでは大変でした」
そうした困難な状況を乗り越えて、基幹システム刷新を進めることができたのは、経営陣の理解だ。「基幹システムは大きな仕組み。”失敗してもいいからやり切れ”という経営者の理解なしにはできませんでした」と杉山氏。
DXに終わりはない。データの蓄積とその活用を進めるほか、3月にローンチしたLINEによる顧客とのコミュニケーションも今後さらなる強化を図っていく予定だ。
最後に杉山氏は、「百貨店は人とのつながりを大事にしてきた業態。ネットは進化しているが、対話を通じて納得して購入いただけるという意味でわれわれの役割はあります。『行ってみたい』『買ってみたい』と思っていただけるような場所とそのための情報の利活用を進めていきたいです」と語っていた。