各社の商業宇宙ステーション構想

ブルー・オリジンらのオービタル・リーフ

オービタル・リーフは、ブルー・オリジンとシエラ・スペースを中心とした共同チームが提案している商業宇宙ステーションである。

打ち上げは2020年代後半の予定で、高度500km、軌道傾斜角約45度の軌道を周回。内部は国際宇宙ステーション(ISS)とほぼ同じ約830立方mの広さをもつ。船内は科学ゾーンと居住ゾーンに分かれており、最大10人が滞在できる。

さらに、地球低軌道上でのあらゆる種類の有人宇宙活動をサポートするために必要なインフラを提供し、新しい市場に対応できるように規模を拡大できる「宇宙ビジネス・パーク」として設計されており、モジュールや「エネルギー・マスト」と呼ばれる太陽電池パドルを追加し、機能を拡張することもできる。

計画には前述の2社のほか、大手航空・宇宙メーカーのボーイング、レッドワイヤー・スペース、ジェネシス・エンジニアリング、アリゾナ州立大学など複数の企業や大学も参画する。

ブルー・オリジンはコア・モジュールや生命維持システムなどの開発、モジュールの打ち上げなどを担当。シエラ・スペースは小型スペースプレーン「ドリーム・チェイサー」による物資輸送サービスを提供する。また、ボーイングは科学研究用のモジュールの開発、ステーション全体の運用を担当。開発中の有人宇宙船「スターライナー」による人員の輸送も担う。

レッドワイヤー・スペースは微小重力環境を利用した研究、開発、製造などの機能を提供。ジェネシス・エンジニアリングは小さな宇宙船のような船外活動服を開発し、ステーションのメンテナンスや宇宙観光に使用する。アリゾナ州立大学は、世界の14の大学からなるコンソーシアムを設立し、宇宙研究や公共アウトリーチを提供する。

  • 商業宇宙ステーション

    オービタル・リーフの想像図 (C) Orbital Reef

ナノラックスらのスターラボ

スターラボはナノラックスを筆頭に、ヴォイジャー・スペースとロッキード・マーティンが共同開発するステーションである。

ロッキード・マーティンが設計・開発する大型のインフレータブル(膨張式)のモジュールのほか、ドッキング・ノード、電力・推進モジュール、貨物やペイロードの搬出や移動などのサービスを行うための大型ロボットアームなどを装備。最大の特徴は「ジョージ・ワシントン・カーヴァー」と名付けられた科学モジュールで、研究、科学、製造の総合的な能力を備えた最先端の実験施設として運用される。

打ち上げは2027年の予定で、1回の打ち上げで全要素を軌道に投入できるという。ステーションには最大4人の宇宙飛行士を継続的に受け入れることができるとしている。

  • 商業宇宙ステーション

    スターラボの想像図 (C) Nanoracks

ノースロップ・グラマンらの商業宇宙ステーション

ノースロップ・グラマンが提案している商業宇宙ステーションは、「ベース・モジュール」と呼ばれるモジュールを基礎とし、科学や観光、産業実験を提供する。打ち上げは2020年代後半の予定。

開発には、現在同社が製造、運用しているシグナス補給船や、月周回有人拠点「ゲートウェイ」のモジュールのひとつとして開発中の「HALO」などの技術をもととする。

ベース・モジュールには複数のドッキング・ポートがあり、将来的には滞在者のための居住区や実験室、船外へ出るためのエアロック、さらに人工重力を作り出せる施設の結合など、拡張が可能だという。

ステーションは当初、4人が滞在できる能力があるが、この拡張により、8人以上の乗組員の滞在も可能でだという。設計寿命は15年間を予定している。

同計画には、同じく米国の航空・宇宙メーカーであるダイネティクスも参画。また、まだ未公表なものの、他にもパートナー企業が参画しているという。

  • 商業宇宙ステーション

    ノースロップ・グラマンが構想中の商業宇宙ステーションの想像図 (C) Northrop Grumman

地球低軌道の有人拠点の商業化は成功するか

ISSへの物資補給、そして宇宙飛行士の輸送を民間企業が担うようになったように、ISSの後継機となる地球低軌道における有人活動拠点もまた、民間企業が担うことになるのは自然な流れといえよう。

実現に向けては、宇宙での年単位の長期滞在技術など、これまで民間が独自には有していなかった技術を開発し、そして実際に人が滞在できるだけの信頼性を確立する必要がある。NASAなどがもっているこうした技術を、スムーズに民間へ移転できるかどうかがひとつの鍵となろう。

また、単なるISSの後継機を超えて、宇宙ステーションの商業化も実現しようとするなら、人や物資の輸送コストをいまよりも下げる必要もある。そのためには、ある程度事業が軌道に乗るまでは、引き続きNASAなどの宇宙機関が大きく関わり続け、下支えしていく必要もあろう。

一方、ISSの後を継ぐ地球低軌道における実験・研究施設は、日本も注力している分野である。

例えば宇宙航空研究開発機構(JAXA)は、ISSやゲートウェイへの物資補給を目指した無人の補給船「HTV-X」を開発しているが、同機は単独でも「宙飛ぶ実験室」として活用可能なように設計されており、最長で1年半、さまざまな先進的技術の実証実験を行うことができる。

また、北海道のベンチャー企業「インターステラテクノロジズ」や、宮城県の「ElevationSpace(エレベーションスペース)」は、内部に複数の装置を載せ、宇宙実験や製造などを行うことができる小型の宇宙利用・回収プラットフォーム衛星を開発しており、微小重力環境を活かした科学的研究や、地球では作れない高品質材料の製造などを行うことを目指している。

HTV-Xも、インターステラテクノロジズやElevationSpaceの衛星も無人機ではあるが、むしろ人が乗っていないからこそ、低コストで、そして危険で大胆な実験や研究も可能になるというメリットもあり、宇宙実験のやり方にイノベーションが起こる期待もある。

ロケットという輸送手段の進歩、宇宙での人の滞在、実験手法の開発、そしてビジネスモデルの確立など、課題は多い。しかし、宇宙機関と民間のタッグによって宇宙技術は着実に進歩し続けており、そして可能性も選択肢も広がり続けている。

かつて米国とソビエト連邦を中心とした対立の象徴だった宇宙開発は、ISSによって国際協力の象徴となった。そしていま、民間の参入によって市場競争と共創の時代が訪れつつある。

  • 商業宇宙ステーション

    JAXAが開発中のHTV-Xの想像図 (C) JAXA

参考文献

NASA Selects Companies to Develop Commercial Destinations in Space | NASA
NASA SELECTS ORBITAL REEF TO DEVELOP SPACE STATION REPLACEMENT
Nanoracks, Voyager Space, & Lockheed Martin Awarded NASA Contract to Design Commercial Space Station
Northrop Grumman Signs Agreement with NASA to Design Space Station for Low Earth Orbit | Northrop Grumman
NASA Plan for Commercial LEO Development to achieve a robust low-Earth orbit economy from which NASA can purchase services as one of many customers - Summary and Near-Term Implementation Plans