米国航空宇宙局(NASA)は2021年12月2日、国際宇宙ステーション(ISS)の後継機となる新たな「商業宇宙ステーション」の建造に向けて、米国企業3社と契約を結んだと発表した。

選ばれたのはブルー・オリジン、ナノラックス、ノースロップ・グラマンの3社。各社とも2020年代後半の完成を目指し、地球低軌道における新たな有人活動拠点として、科学やビジネスに大きな変革をもたらすことを狙う。

  • 商業宇宙ステーション

    選ばれたうちの一社であるブルー・オリジンらが構想している「オービタル・リーフ」の想像図 (C) Orbital Reef

建造開始から23年を迎えた国際宇宙ステーション

国際宇宙ステーション(ISS)は、米国やロシア、欧州、日本、カナダなどの国々が協力して建造した宇宙ステーションで、地球の上空高度約400kmを、約90分に1周する速度で回っている。

大きさはサッカー場ほどもあり、質量は約420t。人類史上最も高価で、技術的に複雑な建造物のひとつとして知られる。その大きさから、条件さえ合えば地上から肉眼でも光の点として見ることができる。

建造は1998年から始まり、2011年7月をもって完成。その後も新しいモジュールの追加や、設備や機器の更新、改良などが行われており、いまなお進歩を続けている。これまでに参加国の宇宙飛行士をはじめ250人以上が訪れており、常時約7人の宇宙飛行士が滞在。約3000件の宇宙実験や研究が行われてきた。

しかし、建造開始から23年を迎えたことで、初期に打ち上げられたモジュールから老朽化が進んでいる。実際、ロシアのモジュールでは老朽化にともなうものとみられる空気漏れなども起こっている。

また、近年民間企業による宇宙開発、宇宙ビジネスが活発になっていること、そしてNASAは有人月・火星探査に目を向けていることもあり、NASAでは「商業地球低軌道開発プログラム(Commercial LEO Development program)」を進めている。この計画では、2030年ごろにISSを退役させ、そしてISSが担ってきた「宇宙実験室」の役割を、発展的に民間企業へ移管。これにより、地球低軌道における米国の継続的なプレゼンスの維持、そして宇宙ビジネスの振興を目指している。

一方で民間企業も、そうした方針に応え、いくつかの企業が商業用の宇宙ステーションを造る構想を打ち出している。

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    国際宇宙ステーション(ISS)の全景。初期に打ち上げられたモジュールから老朽化が進みつつある (C) NASA

選ばれた3社の商業宇宙ステーション構想

そして今回、NASAはそうした商業用の宇宙ステーションを開発するために、米国企業3社と契約を結んだ。選ばれたのはブルー・オリジン(Blue Origin)、ナノラックス(Nanoracks)、ノースロップ・グラマン(Northrop Grumman)である。

今回の契約は、米国の民間企業による商業宇宙ステーションの開発を促進し、そして政府機関や民間企業の両方の顧客が利用できるようにすることを目指したものである。

ブルー・オリジンは実業家のジェフ・ベゾス氏が立ち上げた宇宙企業で、米国の宇宙企業シエラ・スペースやボーイング、レッドワイヤーなどといった企業と「オービタル・リーフ(Orbital Reef)」と呼ばれる宇宙ステーションの計画を提案している。

ナノラックスは2009年創業の宇宙企業で、ISSに商業用の実験ラックやエアロックを設置し、これまでに1300件以上の研究実験の実施、300機以上のキューブサット(超小型衛星)の放出をビジネスとして手掛けている。同社はヴォイジャー・スペース、ロッキード・マーティンなどとともに「スターラボ(Starlab)」と呼ばれる宇宙ステーションを提案している。

ノースロップ・グラマンは米国の大手航空・宇宙メーカーで、ISSに物資を補給する「シグナス」補給船などの技術を活用した商業ステーションを提案している。

今回の契約の総額は4億1560万ドルで、そのうちブルー・オリジンは1億3000万ドル、ナノラックスは1億6000万ドル、ノースロップ・グラマンは1億2560万ドルを受け取る。

商業宇宙ステーションの建造に向けた計画は大きく2段階で進められ、今回が第1段階となる。まずは各民間企業とNASAが協力し、政府や民間企業の潜在的なニーズに適した商業宇宙ステーションの機能を策定・設計することを目指す。この第1段階は2025年までに完了する予定となっている。

続く第2段階では、NASAは、これらの企業などが提供する商業宇宙ステーションを、NASAの宇宙飛行士が利用するための認証を実施。そして最終的には、それぞれの企業からサービスとして使用権を購入し、宇宙飛行士が滞在できるようにすることを目指している。

民間企業が商業宇宙ステーションを所有・運営し、NASAがその顧客の一人となることで、民間による宇宙ビジネスの活性化が期待できるとともに、NASAにとってはISSで行ってきたような実験や研究などを低コストで継続できるようになり、そして月や火星への有人探査を目指す「アルテミス」計画に集中するようにもなると期待されている。

NASAのビル・ネルソン長官は「民間企業との提携によって、私たちはこれまでに、ISSへの貨物輸送、そして宇宙飛行士の輸送を成功させてきました。そしてNASAはふたたび、宇宙活動の商業化をリードしていきます」と述べた。

「民間企業が地球低軌道への輸送手段を提供するようになったいま、私たちは米国企業と提携して、人々が訪れ、生活し、働くことのできる宇宙ステーションを開発していきます。これにより、NASAは宇宙での商業活動を促進しながら、人類の利益のために、宇宙における新たな道を切り開いていくことができるのです」。