ENEOSの水素事業の現在
今回の取材では、前田氏へのインタビューを踏まえ、ENEOS 横浜綱島水素ステーションに併設されている水素情報の発信拠点「スイソテラス」にも伺い、具体的にどういった取り組みを進めているのか、実際の様子をその目で見てみた。
同社は、長年、石油精製やガソリンスタンドなどの販売事業をはじめ、エネルギー供給を担ってきたノウハウを生かし、水素事業を展開している。
同社が水素事業として初めに取り組んだのは水素ステーション事業だ。 2014年12月のトヨタ自動車の量産型燃料電池自動車「MIRA(ミライ)」の発売開始に合わせて商業用水素ステーションを開所した。
水素ステーションはMIRAIのような水素と酸素で発電し、モータ駆動を行う燃料電池自動車(FCV)向けに水素を充填する、いわばガソリンスタンドの水素版だ。
ENEOSは、現在、四大都市圏において47か所の水素ステーションを展開している。加えて3か所を現在建設中だという。
現在国内で営業している水素ステーションは155か所。ENEOSはその3割強を占めている。
水素ステーションは、東京2020大会でも活用された。大会車両として使用されたFCVやFCバスへの水素供給にも首都圏7か所の水素ステーションが携わったという。
水素ステーションには、水素製造装置を敷地内に有する「オンサイト」型と水素を外部から持ち込む「オフサイト」型がある。 首都圏のオフサイト型のステーションにはENEOSが2016年に横浜市に開所した「水素製造出荷センター」や2020年に東京都品川区に開所した「東京大井水素ステーション」で製造された水素が運ばれて使用されている。
東京2020大会で使用された水素は、、この「オンサイト」や「オフサイト」の水素のほかに、福島県浪江町にある東芝エネルギーシステムズ、東北電力、岩谷産業が運営する「福島水素エネルギー研究フィールド(FH2R)」において製造されたもの、山梨県、東レ、東京電力ホールディングス、東光高岳が運営する米倉山電力貯蔵技術研究サイトで製造された山梨県産水素が「ENEOS水素」として供給されたのだという。
水素事業の今後は?
同社は今後、物流トラックが利用しやすいエリアに水素ステーションを設置するなど、商用FCVの普及にも貢献していきたいという。
また、2020年初めに発電事業者のJERAが運営する「大井火力発電所」の敷地内に600Nm3/時の規模で水素製造が可能なオンサイト水素ステーション東京大井水素ステーションを整備した。
首都圏にあるオフサイト型水素ステーションへの出荷機能も備えており、安定した供給体制の構築にも力を入れていく予定だという。
ステーションの増設や、水素製造機能の強化などを進めているENEOS。現在は水素ステーションでの水素販売が水素事業の主となっているが、製造時にもCO2をほとんど排出しない「CO2フリー水素」のサプライチェーンを構築し、幅広い事業分野での水素供給により収益を獲得するのを目標として掲げている。
そのために、「国内外の実証事業参画を通じたCO2フリー水素サプライチェーンの構築」「運輸分野の脱炭素に向けた水素供給体制の構築およびジェット機などの一定の内燃機関向け合成燃料事業の拡大」「再エネと水素を組み合わせた地産地消型のエネルギー供給プラットフォームの展開」といった3つの戦略で水素事業を推進していく計画だ。
水素社会が到来し、水素の需要が増えた世の中においても、ENEOSがエネルギー供給事業者として、ガソリンなどと同じように“安定した水素供給”ができるように、各社と協力し、実証や研究を進めていくという。
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