7機体制による日本独自の衛星測位システムへ

現在、すでに多くのスマートフォンやカーナビが「みちびき」からの電波受信に対応しているほか、「みちびき」の各種サービスを活用した新しいサービスや技術、ビジネスの実用化や振興に向けた取り組みも行われている。

また内閣府の宇宙基本計画においては、「我が国の安全保障能力の維持・強化に必要不可欠な位置の認識・標定及び時刻同期の能力を自立的に確保するため」とし、2023年度をめどに、「みちびき」の衛星数を現在の4機から7機へ増やすことが明記されている。

この7機体制が実現すれば、GPSの補完、補強サービスがより安定する。さらに、日本周辺限定ではあるものの、GPSに依存しない、すなわち「みちびき」のみで、自立した衛星測位システムとしても機能でき、ある程度の精度で独立した測位が可能になる。

宇宙基本計画ではまた、「持続測位能力を維持・向上するために必要な後継機の開発に着手する」とも定められている。

現在地球のまわりには、米国のGPSのほか、欧州の「ガリレオ」、ロシアの「GLONASS」、そして中国の「北斗」といった全地球衛星測位システムが配備されており、市販されている大半のスマートフォンやカーナビは、これらのシステムを併用して、測位の安定性や精度を高める「マルチGNSS」技術が使われている。

ただ、いずれかのシステムがトラブルなどで停止する可能性があり、また日本にとっては、民生品はともかく、とくに安全保障にかかわる機器や目的においては、ロシアや中国のシステムを利用することに懸念もある。だが、7機体制が確立された「みちびき」があれば、日本周辺などにおいて、トラブル時に精度の低下が避けられるほか、他国への依存度を下げることができる。

打ち上げ後の記者会見に登壇した、内閣府 宇宙開発戦略推進事務局 審議官の岡村直子氏は「準天頂衛星システムが提供する位置・時刻情報は、我が国の経済社会活動とデジタル化を支える重要な社会基盤です」とその意義を強調。

「今後も幅広い分野で利活用が進み、イノベーションや新たなビジネスの創出に貢献することを期待しています。そして7機体制を確立することによって、我が国の安全保障の能力の維持強化を自立的に確立することが可能となります」と期待を語った。

  • みちびき初号機後継機

    みちびき初号機後継機の想像図 (C) 内閣府

H3ロケットへの準備も着々

H-IIAロケットは三菱重工が運用する日本の基幹ロケットで、2001年の初打ち上げから今年で20周年を迎えた。今回が44機目の打ち上げで、43号機から約11か月ぶりの打ち上げとなった。

今回の打ち上げ成功で、44機中43機が成功となり、打ち上げ成功率は97.7%。また、6号機は失敗したものの、7号機以降は38機が連続成功している。

現在、三菱重工と宇宙航空研究開発機構(JAXA)は、H-IIAの後継機となる「H3」ロケットの開発を進めており、今年度中の試験機1号機の打ち上げを目指している。

H-IIA打上執行責任者を務める、三菱重工の徳永建氏は「H-IIAの打ち上げから20年、やっと節目のところに来たという感じです。一つひとつ、確実に、着実に打ち上げることをモットーとして、その結果ここに来られたことは非常に喜ばしいです。H-IIAでの取り組みは、そのままH3でも活かしていけると思っています。これまでの実績をそのまま引き継げるよう、これからもやっていきたいと思います」と感想を述べた。

なお、今回の打ち上げでは、H3用に開発された新型のロケット運搬台車、通称「ドーリー」が使われた。

ドーリーは、ロケットが上に立った状態の移動発射台を載せ、ロケットが組み立てられる大型ロケット組立棟(VAB)から、打ち上げを行う射点まで運ぶ役割をもつ。組立棟から射点まではおよそ500mで、同型の車輌が2輌で1組となり、協調して約30分かけて運ぶ。

これまで、H-IIA用の移動発射台「ML1」やH3用の移動発射台「ML5」を搭載しての走行試験や、H3の極低温点検時にH3の試験機を載せて運んだことはあるが、実際に衛星を搭載して飛び立つロケットを載せて運んだのは、今回が初めてだった。

徳永氏は「機体移動には私も立ち会いましたが、動きが非常にスムーズで、機体を射座に据え置く際もスムーズであり、心配になることはありませんでした。これまで使っていたドーリーと比べてもスムーズでした」と語った。

なお、今後も基本的には新型ドーリーを使用し、運用が順調に進めば、時期は未定なものの、旧型のドーリーは退役となるという。

  • みちびき初号機後継機

    新型のロケット運搬台車(ドーリー) (写真は2018年12月に行われた報道公開時のもの、筆者撮影)

初打ち上げから20年を迎えたH-IIA。実績を着実に積み上げていく一方で、それを受け継ぎ、さらに高めることを目指した新世代のH3の開発、そして初打ち上げに向けた準備が進む。

これから日本は冬を迎えるが、種子島をはじめとするH3にかかわる各地の拠点、そして技術者と技能者にとっては、年度末に向けて、暑く熱い"ロケットの夏"が続くことになる。

  • みちびき初号機後継機

    飛翔するH-IIAロケット44号機と種子島宇宙センター (C) 三菱重工

参考文献

三菱重工 | H-IIAロケット44号機による準天頂衛星初号機後継機の打上げ結果について
H-IIAロケット44号機打上げライブ中継 / Live streaming for the launch of H-IIA Launch Vehicle No.44 - YouTube
みちびき初号機後継機の概要|みちびき初号機後継機特設サイト
「サービスの概要」一覧|サービス概要|みちびき(準天頂衛星システム:QZSS)公式サイト - 内閣府
宇宙基本計画 - 内閣府