近年、EC市場の拡大に伴う“物流のスマート化”が喫緊の課題となっている。
労働人口は減少する一方で、EC市場の拡大から物量が増大しているため、ロボットの導入や活用による効率化が迫られているのだ。
一方で、物流センターは自動化が難しいとも言われてきた。その理由は“多品種を異なる条件で大量に”さばかなくてはならないからだ。
ロボットは、同じ品種を同じ条件で作業するのは得意ではあるが、異なる品種、条件を扱うのは苦手とされてきたため、そういった工程にはロボットの導入が難しいとされてきた。
そんな中、2016年に庫内作業者をサポートする形で、注文されたさまざまな商品を選び取るピッキング作業を行うロボットを導入するなど、積極的に自動化に取り組んでいる通販事業大手、アスクル。
今回、同社の関東の物流拠点「アスクルロジパーク(ALP)横浜」を見学する機会があり、ピッキングロボットの現在の稼働状況や、同社の自動化がどこまで進んでいるのか、そしてロボットとヒトが一緒に働くことについて話を聞いた。
アスクルの自動化推進のベース拠点「ALP横浜」
アスクルは、BtoB向けの通販サービス「ASKUL」やBtoC向け通販サービス「LOHACO」を展開している。
全国に9か所の物流拠点を持ち、物流拠点はアスクルの100%出資会社である「ASKUL LOGIST」が運営している。
今回、見学したALP横浜は、敷地面積2万5500m2を誇り、同センターからは神奈川県全域、多摩地区、埼玉県の一部、千葉県の一部、東京都23区の一部への配送を担当しており、ASKULとLOHACOの両方の物流を担当している巨大な物流センターだ。
同センターは、自動化、省人化を図る当時では最先端の物流センターとして、2016年5月から稼働を始めた。
同社は、ALP横浜で導入したロボットの知見を活かす形で自動化をさらに進めた「AVC(アスクルバリューセンター)関西」を2018年2月に稼働開始し、2022年夏ごろには「ASKUL 東京DC(ディストリビューションセンター)」の稼働を予定している。
AVC関西には、2018年にALP横浜内にロボットの新機能や課題の検証を行う目的で開設された「ASKUL Robotics Lab.」で検証したものを導入している。
いわばALP横浜は、アスクルのロボット導入、自動化推進の拠点といっても過言ではないだろう。
ヒトの手が多くかかるピッキング工程の自動化で生産性が約3倍に
アスクルとしてALP横浜に初めて導入した設備がピッキング工程の自動化を目的とした「GTP(Goods To Person)」だ。
同社でロボットの導入や運用などを担当する、アスクル テクノロジスティクス本部 マネージャーの名古屋真一氏によれば「ピッキング工程は、全工程の中で最も作業者の手間がかかるため、効果が出しやすいといった面で、力を入れて自動化に取り組んだ」という。
従来は、ヒトが歩行しながら商品を探し、ピッキングを行っていたが、ピッキング工程にかかる時間の約3分の2を歩行の時間が占めていた。
GTPの導入で、歩行時間が無くなったことから、生産性が約3倍に増加し、必要人員が3分の1に軽減されたというのだ。
上記写真のピッキングロボットは、2016年の12月にALP横浜のGTPエリアに導入された。
ロボットビジョンで商品を認識、ロボットコントローラから商品をどうやっていくつ取るのかといった指示を出し、ロボットアームで商品を取り出す仕組みとなっている。
ロボットの“目”と“脳”にあたるビジョンとコントローラは、東大発ベンチャーMujinのものだ。Mujinとアスクルは、2015年にロボット技術開発に関する業務提携を締結し、ピッキングロボットの開発を進め、導入に至った。
現時点では、生産性や商品が限定されるといった課題があるため、先述したASKUL Robotics Lab.で実験・検証を重ねている。
ピッキングロボットを初めて導入したのは、旧ALP首都圏(現・ASKUL三芳センター)で、その際には1時間あたり約110ピック(1ピックで、在庫品を箱から取り出し、出荷する箱に入れるところまでを指す)という生産性だった。その後、ALP横浜で本格的に導入した際には1時間あたり約300ピックまで生産性が向上した。
ここまで生産性が向上したのは、ロボットがピッキング動作に入るまでのロスタイムを減らすべく検証を重ねたためだという。
旧ALP首都圏では商品がロボットの前に来てから、商品の認識とピッキング動作に入るため、ピッキング動作までに時間を要していた。ALP横浜では、ピッキングポイントを2箇所に増やし、片側でロボットが稼働し、もう片側でカメラで到着した商品の認識と動作計画を事前に行うように改良。これにより、商品到着後、すぐにピッキング動作を行うことができ、大幅に生産効率を上げることができたという。
また、ロボットの生産性には、コンベヤのレイアウトも重要だ。同社のRobotics Labでは更なる生産性向上のために、ロボットだけでなく、オリコンを流すコンベヤのレイアウトの検証を行っている。
AVC関西では、初期導入のロボットと比較して数倍の生産性向上が実現できたロボットを導入し稼働を行っている。
生産効率は順調に上がっているが、一方で課題もある。
「生産性を向上させるため、コンベヤのレイアウトを上下2段で構築したが、複雑な構成となってしまい、エラーが出たり、コストがかかってしまったりした。今後はコストの削減やエラーが出にくい、よりシンプルな構成を検証していきたい」と名古屋氏はいう。
ALP横浜の後にGTPを導入したAVC関西では、横浜の約10倍のステーション数でGTPを展開し、生産効率の向上を図っている。