USEN-NEXT GROUPの中で店舗向け音楽配信事業に強みを持つUSENは、今年で創業60年を迎える。2020年から続くコロナ禍において、同社は今年4月に飲食店をターゲットとする「USEN まるっと店舗DX」を立ち上げ、店舗の開業から接客、勤怠管理など広範囲にわたりテクノロジーを活用した店舗運営を支援する。

これまで長年、有線放送に携わってきた同社が、デジタルテクノロジーで飲食店を支援するまでに至った経緯と店舗のDX(デジタルトランスフォーメーション)が進む未来図について、同社の執行役員 ITソリューション事業部長 伊藤直嗣氏に話を聞いた。

  • USEN 執行役員 ITソリューション事業部長 伊藤直嗣氏

--なぜ、店舗のデジタル化支援を始めたのでしょうか

伊藤氏:当社の事業は店舗向けの音楽配信から始まりました。それ以来60年にわたって、飲食店の経営者を中心にあらゆる業態の店舗と幅広く取引を行ってきました。店舗の方と直接話す機会が多かったものですから、「こんなサービスないの?」「こんな機器ないの?」という要望の声を聞く場面も多かったのです。

こうした要望に対して当てはまるサービスを提供していくというのが、これまでの私たちの歩みでした。その積み重ねとして、現在は開業セミナーや保険の紹介、通信事業、店舗アプリの受託開発など、店舗運営に必要なさまざまなサービスを提供できるようになりました。こうして生まれたのが「USEN まるっと店舗DX」です。

当社がお付き合いしている顧客の約3分の1は飲食店です。そうした経緯から飲食店の運営に強みを持っていますので、特に飲食店向けのサービスとして、「USEN まるっと店舗DX」を打ち出しています。最初はPOSレジのサービス提供から始まって、その後徐々にソリューションが拡充してきたのが大まかな歴史です。

  • Uレジに対応したハンディ端末で注文を入力する様子

--飲食店のデジタル化をどのようにお考えですか

伊藤氏:DXという言葉は、さまざまな文脈の中で使われることが多いので、まずは当社なりのDXの定義をしました。当社における店舗のDXとは「可能な限りあらゆるサービスをデジタルテクノロジーに置き換えて、その上で既存のオペレーションそのものを作り直す」ことです。特定の業務を代替するソリューションだけではなく、あらゆる範囲の業務に対して「まるっと」ソリューションを提供しない限りは、当社が描くDXではありません。

従来の飲食店の経営は、席の案内から注文、配膳、会計まで、人の手で行っていました。さらには、閉店後にも商品の受発注や勤怠管理など、バックオフィス業務にも人の作業が必要だったのです。当社では現在、これらの作業を代替可能なソリューションを幅広く提供しています。

人がこれまで行っていた作業をデジタルテクノロジーに置き換えることで、時間が生まれます。当社としては、こうして生まれた時間を必ずしもシフトの効率化や人員の削減に充ててほしいわけではありません。この時間を活用して、ホスピタリティのある接客や新メニュー開発、人員教育など、人にしかできない価値を生み出す時間に使ってほしいのです。

  • 飲食店で客自身がタブレット端末から注文する様子、注文と伝達業務を効率化できる

また、当社が「まるっと」とうたっているのは、もう1つの理由があります。飲食店の経営者は、全員が必ずしもITに詳しくてリテラシーが高い方ばかりではありません。デジタルソリューションを店舗に導入したいけれども、実際には何から始めたらよいのか分からないという方もいます。

そうした方々に対して当社では、ソリューションはもちろんのこと、機器を導入するために施工するエンジニアと、導入後のサポートや保守を担当するスタッフをそれぞれ用意しているのです。プロダクトという意味でのハード面と、運用サポートという意味でのソフト面の両輪のサービスを提供しているからこそ、「まるっと」と言えています。

  • 機械ではなく人にしかできない作業に、多くの時間を使ってほしいと話す