排熱・気流の仕組みを研究し、プロジェクターを独自開発

--そもそも、エレベーターにプロジェクターを設置してうるさくないのでしょうか

羅氏:オフィスの会議室などで利用される、筐体がプラスチック製のプロジェクターでは排熱ファンの音がうるさく感じられるでしょう。当社では、エレベーターという狭い空間にあってもビルの利用者の気分を害さないよう、独自で開発した明るさと静音性を両立するプロジェクターを特注で製造しています。

  • エレシネマで使用されるプロジェクター

例えば、ボディ全体を金属製にしたり、排熱ファンの表面積を増やしたりと排熱の仕組みを工夫することで、排熱ファンを多く回転させなくて済むようにしました。プロジェクター運転中に発生する音は、排熱ファンのモーター音だけでなく、空気が動くことによる音もあります。そのため、モーターのパーツや設計を工夫し、気流のシミュレーションを繰り返すことで、空気が筐体の角にぶつからず、空気の渦が発生しない構造にしました。

  • 同社特注のプロジェクターを紹介する羅氏

--他にも技術上の工夫はありますか

羅氏:当社が設置を進めるプロジェクターは、エレベーターのドアの開閉に合わせて映像の投影を調整する仕組みになっているのですが、ドアの開閉はマグネットセンサーで感知する方式を採用しています。具体的には、ドアの内側に取り付けたマグネットが規定の位置にあるセンサーと重なると映像が投影されます。

また、ドア内側の映像が投影されるスペースには、CDの裏面構造を応用した特殊な構造の専用シートを貼り付けています。このシートが入射光と反射光をズラすことで、エレベーター内を暗くせずとも、見やすい映像を映し出せるようにしています。

中国・BATも参戦するエレベーターメディア

--中国のエレベーターメディア・広告の市場はどんな様子ですか

羅氏:中国ではエレベーターホールのディスプレイやプロジェクターはメジャーな存在です。メディアや広告の視聴率などを調査しているCTRの資料によれば、中国ではコロナ以前でもすでに15万台ほどエレベーターに搭載するプロジェクターが普及していました。また、広告の市場規模も2017年、2018年の時点で、エレベーターホールのモニターやエレベーター内ポスターはインターネットを超えており、今もその傾向が続いています。

  • 中国市場の媒体別広告市場規模の変化(出所:東京 会社説明資料)

エレベーター広告事業を展開する企業は複数ありますが、現状はFocus Mediaのほぼ独占状態と言えます。広告の市場規模拡大を追うように、2018年、2019年ごろからはBAT(バイドゥ、アリババ、テンセント)などのプラットフォーマーもエレベーター広告事業に参戦。出資や買収、ディスプレイやプロジェクターを使った自社サービスの立ち上げなど、さまざまな方法でエレベーターをはじめとしたオフラインスペース広告への投資合戦を繰り広げている状況です。

中国プラットフォーマーがオンラインだけでなくオフラインにも進出する理由は、OMO(Online Merges with Offline)で語られるオンラインとオフラインの融合、あるいはオンラインの拡張としてのオフライン活用のためです。彼らは基本的に、建物内にいる人の属性がわかって、ターゲティングしやすいオフィスとマンションのエレベーターにディスプレーやプロジェクターを設置しているのですが、ある製品の広告をAとB、2種類流して、「どちらの広告のQRコードが読み込まれたか」「ECショップ経由での販売が伸びたか」などをリサーチし自社のサービス展開に活用しています。

--今後の目標について教えてください

羅氏:BtoBの世界では営業に力を入れるのが当たり前で、広告はそれほど注目されていなかったように思います。そこにタクシー広告が現れて人気になりましたが、エレベーター広告もそれ以上に活用される革新的なメディアにしたいです。

将来的にはエレベーターのサイネージやプロジェクターをインタラクティブなメディアにしたいです。ソニーの「Xperia Touch」というプロジェクターでは、投影した映像に触れて、映像をタッチパネルのように直観的に操作できるのですが、エレベーター広告にも、同様の技術を応用して、今までにない体験を作り出せると考えています。

例えば、BtoC向けのアイデアではありますが、エレベーター内に映した映像に「今日のおすすめ商品」を表示させてタッチすると、カメラと組み合わせた顔認証機能で選択した商品の決済まで行える。そうした映像を介したサテライトコンビニのような使い方もできると思います。