「MaaSを通じた新たな移動体験の創造」日本航空(JAL)
新型コロナウイルス感染症の影響によって航空需要が低下し、日本航空(JAL)の国際線の利用者数は9割程度減少したという。その一方で、ワーク/ライフスタイルの変化に注目が集まり、地方への移住やワーケーション、個人旅行が増加するなど、移動の目的そのものが変化しつつある。航空業界でも、そうした市場環境の変化や価値観の多様化に合わせたサービスの創出が求められているという。
そこでJALでは、長距離を移動する生活者に対し、航空機を中心にして国内外の多様な交通事業者をつなぐMaaSプラットフォームの構築を目指す。自宅から目的地までをシームレスに移動可能とするサービスの提供に加えて、宿泊や飲食などの生活サービス業者と接続することで、JALアプリ1つでパーソナライズされた移動を実現するシステムの構築を実現するとのことだ。
同社は今年3月、目的地までのシームレスな移動体験の創出に向けてUberと協業を開始した。空港到着後にJALアプリからUberを配車を可能にする取り組みなのだという。さらに今後は、目的地までの移動だけでなく、UberEATSなど他のサービスとも連携することで、滞在体験全体をスコープとした利便性向上への取り組みを加速するとのことだ。
他の取り組みとして同社の事業創造戦略部 MaaSグループ グループ長 清水俊弥氏は、米Milesとの連携を紹介した。同社は生活者の交通手段をAIで解析し、その移動に応じたポイントによってリワードが付与される仕組みを開発している。JALはマイレージ会員として3000万人を保有しており、両社の提携によって、個々の会員それぞれにパーソナライズされたサービスの構築を目指すとのことだ。
「ニューノーマルに求められるモビリティサービス」WILLER
WILLER 代表取締役 村瀨茂高氏は、プレゼンテーションの冒頭でMaaSの提供価値について、「日本だけではなく世界全体が考えるべき社会課題に対して、MaaSはその手段となる」と述べた。MaaSは持続可能な社会づくりやカーボンニュートラルの実現に加えて、特に地方地域においては、マイカー保有者と非保有者の移動格差をなくすための手段としての活用が求められているとのことだ。
コロナ禍における生活様式の変化によって、分散型社会や職住融合が加速している。そうした環境においては、半径2キロメートル以内のMaaSが重要になるとのことだ。一般的にMaaSは、長距離の移動に対するソリューションとして捉えられることが多い。しかし、同氏は「ニューノーマルの世界においては自分らしい生活がテーマになるはず」として、「地域のコミュニティづくりにMaaSを活かすべきだと思う」と加えた。
現在のところ、航空機や都市間バスなど中長距離の交通機関が発達する一方で、生活圏など身近な距離を移動する公共交通機関は限られている。そこで同氏は、コミュニティモビリティを活用して、マイカーと同等かそれ以上にシームレスな交通システムを作ることを提案した。こうした取り組みが全国に広がることで、地方における交通手段の制限を緩和にもつながるはずとのことである。
「ワンマイルオンデマンド」とは、半径2-3キロメートル以内程度の狭い範囲において、行きたい時に行きたい場所まで自由に移動可能な相乗りオンデマンドサービスである。同社はワンマイルオンデマンドサービスとして「mobi」を提供している。移動手段の選択肢に、短距離をつなぐワンマイルオンデマンドが加わることで、地域に住む個々人のニーズを中心にしたサービスが生まれ、移動の自由度が上がるだけでなく地域の経済活性化にもつながるのだという。
講演の中で同氏は、「今後訪れるであろうポストコロナの時代において、地域の交流を生み出すことで、街の価値が今以上に高まるはず。MaaSは10年後も安心して暮らせる社会を作る手段になって欲しい。私たちは小さな距離のMaaSから初めて、徐々に長距離のMaaSに挑戦していきたい」と述べた。