デジタルとアナログの融合が新規参入の勝ち筋

これまで、既存の金融機関のサービス変化について述べてきましたが、金融サービス仲介業の創設で恩恵を受けるのは、今後、仲介事業に取り組もうとしている新規参入事業者も同様です。特に、小売りやアパレルなど、既に顧客データの基盤を保有している事業者にとっては、金融商品を取り扱うことで、より利便性の高いサービスを創出できる可能性が高まっています。この場合も、顧客体験を意識したサービス導線の設計は欠かせません。

利用者に利便性を提供する金融サービス仲介業ですが、既に顕在化しているニーズとして「相談」があります。

2019年8月~9月に、「Moneytree」の利用者約3000人を対象に、資産形成を検討する際の金融のデジタルサービスに関するアンケートを実施した結果、金融商品の複雑さから、具体的な検討段階は「対人での相談」により安心感を得たいという声が57.8%でした。

  • 金融商品を検討する時の「相談」のニーズ 資料:マネーツリー

その一方、契約・購入やその後の管理をデジタルで行いたいと希望する声は約74%を占めることがわかりました。

  • 契約・購入後の「デジタルの商品管理手段」のニーズ 資料:マネーツリー

つまり、情報収集する時はデジタルで行うものの、金融商品を具体的に検討する時は人に相談したいと多くの人が考えています。

従来、融資や資産形成のアドバイスは、金融機関の営業員やファイナンシャルプランナーが必ず面談して行うものでした。商品選びも金融資産情報や取引履歴に基づいた商品の提案や見直しも、金融商品は複雑なものであり、検索で情報を集めることができても何を選べばよいのかなかなか判断することができないものです。

もうひとつの課題が契約・購入後の「デジタルの商品管理手段」のニーズです。「商品の内容を忘れてしまいやすいのでいつでもすぐに再確認したい」「取引報告書や保険証券などの案内を紛失してしまう」「満期・未納・失効に気づかない」など、利用者はデジタル化することでいつでも最新の情報を確認できることを期待しています。

リアルな対面での相談とデジタルの利便性。利用者は金融サービス仲介業に対して、利用者はふたつの相反する要素を期待しています。

信頼と安全性の担保も欠かせない

スマートフォンが日常のあらゆるシーンで利用され、各サービスをつなぐデジタルハブとして機能している現在、利便性と表裏一体であるのがプライバシー侵害や情報漏洩に対するセキュリティのリスクです。総務省によると、新型コロナウイルス感染症への対応として社会全体のDXが進む中、2020年4月以降に受けたサイバー攻撃の件数が「増加した」と回答した企業が前年同月比で33.8%に上り、増加傾向にあるとされています。

金融サービスにおいてもセキュリティ対策の重要性は厳しく認識されています。銀行システムのクラウド化が近年まで進まなかった原因も、セキュリティへの不安が起因しているといえます。金融サービスを提供する側として、必ず実施されることが、なりすまし防止を目的とした窓口での本人確認業務です。金融サービスの利便性を本当の意味で向上させるには、この業務をデジタル化させてシームレスな確認フローを構築することで、強固なセキュリティ対策と安全性を担保することが大前提です。

このデジタル化の波として、最も注目されているのが、「eKYC(electronic Know Your Customer:オンラインでの本人確認)」の導入によるデジタル上での本人性の確認です。スマートフォンのカメラで身分証を撮影し、そのまま登録することで、オンライン上で本人確認が可能になります。事業者は顧客に対して身分証のコピーの郵送を求める必要がなくなり、サービス開始までのフローを簡素化することで顧客の離脱を防ぐことが可能になります。また、消費者側も登録後、すぐにサービスを開始できるため、利便性を高めることが可能です。登録画像の流出や不正利用についても対策が進められているため、安全性も担保されます。

例えば、日本で唯一のeKYC対応のデジタル身分証アプリ「TRUSTDOCK」と本人確認API基盤を提供するTRUSTDOCKでは、本人確認を必要とする事業者に対して、専用JavaScript「TRUSTDOCKアップローダー」を提供し、その場で免許証を撮影して画像を提出させることが可能になる仕組みを提供しています。流出した免許証画像の悪用をはじめ、不正な申し込みを抑制することが可能となります。

これまで見てきたように、金融サービス仲介業の創設は、金融事業者に対して顧客を中心とした金融サービスの創出に向けた柔軟性とデジタル技術活用の可能性を与えてくれるものであり、今後の動向が注目されます。適材適所なデジタル技術の活用により、セキュリティを担保し、消費者にとってより利便性の高いサービスの提供が推進されることに期待するとともに、金融データプラットフォームを運営するマネーツリーとして、その基盤を支え金融データエコシステム構築に向けた貢献ができればと考えています。

関連資料

「かづな先生の保険ゼミ 歴史で覚える日本の生命保険1」

「かづな先生の保険ゼミ 歴史で覚える日本の生命保険3」

「キャッシュレス・ビジョン」(経済産業省、2019年4月)

「身分証等の画像データを不正利用されないために、「eKYC」ができることを解説」

「サイバー攻撃の最近の動向等について」(総務省 サイバーセキュリティタスクフォース事務局、2020年12月)

著者プロフィール

山口 賢造

マネーツリー株式会社ビジネス ディベロップメント ディレクター

外資系IT企業でのセールスコンサルタントとして従事後、アプリ制作会社にてプロジェクトマネジャーとしてアプリ開発に携わる。 その後、ソフトウェアデザイン会社の起業を経て、マネーツリーに創業時より参画。 現職では、市場動向やニーズの把握、金融データプラットフォーム「Moneytree LINK」の市場浸透に従事