震災からの復興で注力していた情報発信がコロナ禍でも活躍
宮城県の南三陸町にある南三陸ホテル観洋は、創業49周年を迎えるリゾートホテルだ。複数の食品加工会社や観光ホテルを手がける阿部長商店グループの一員であり、絶景を楽しめる露天風呂や松島を代表とする観光スポットを多く擁する立地から人気を博している南三陸ホテル観洋は、SNSや動画配信といったIT活用に積極的なホテルでもある。
現在はFacebook、Twitter、Instagramと主要のSNSに加え、LINEやYouTubeも活用した積極的な情報発信を行っているが、その原点となったのは2011年の東日本大震災だという。
「災害発生時はもちろん、復興に向けても情報発信は大切です。また、それ以前から観光地としての情報発信の大切さは感じていましたが、同時に働く人たちのモチベーション向上にもつながるものだと思います。都会に出たい気持ちを抑えて地元で働いている人も多いので、自分のPRしたいことをやる、熱心に取り組めるものを見つける、仕事にやりがいを見いだすということは大切。若い人が取り組んでもらえば仕事の魅力につながると考えて着手していたのですが、それが震災の時にも役立ちました」と、南三陸ホテル観洋 女将の阿部憲子氏は語る。
災害発生時の情報収集から、復興に向けての情報発信へと切り替えながら各種SNSやブログを活用する中、個別に担当者を定めるのではなくチーム体制で取り組んできたという。
「女将ブログ、支配人ブログというのはよくありますが、1人でやっていると壁に当たりやすいと考え、7人で日替わり担当にしました。それぞれの能力や個性を生かして、競うように楽しんでいます。社内で理解を得るため工夫しつつ、チームという形で皆を巻き込んで進めたことにより、震災からの復興の雰囲気作りにもなりました。それは、コロナ禍の今も感じていることです」と阿部氏。
バラエティ番組風や旅番組風のYouTube発信にも注力
宿泊業に大打撃を与えたコロナ禍の中、新たに注力しているのがYouTubeを利用した情報発信だ。単なる施設案内や近隣観光地の紹介にとどまらず、独自に観光番組風の案内を行ったり、クロスワードキャンペーンの回答発表をクイズ番組形式で行ったりするなど、楽しませる工夫に富んでいる。先のSNS活用などからつながるIT活用で、技術面での中心となったのが阿部長商店 南三陸ホテル観洋 ネット販売部長 兼 予約課長の尾崎祐介氏だ。
「一般的に、旅館業は保守的なため、デジタル技術を活用して新しいことに取り組むとなると、経営者の理解がないと難しいものです。南三陸ホテル観洋は、女将の理解があるので、活動しやすい環境です」と尾崎氏は語る。
震災復興に向けた取り組みから引き続き、町に関心を持ってもらい、地域とホテルへのイメージアップを図るために行われている情報発信は実に多彩だ。あえて台本を用意しない自由なトークや、部署を超えたゲスト出演は、視聴者にとっての面白さ以上のものも生み出しているという。
「セクションを超えたプロジェクトを組み、いろいろな部署の人をゲスト出演させたことで、今まで気づいていなかった才能が見つかることがあります。この人はこんなことができるのか、と発見することもありました。また、YouTubeはSEOも強く、公式サイトへの誘導も強力にできます。そのため、ネット通販事業は、もともと力を入れていたこともあり、コロナ禍以前の5倍に通販の売上が伸びました」と尾崎氏。
多彩な取り組みは、手当たり次第に行っているわけではない。外部講師を招いた勉強会を姉妹館や本社と共に行い、戦略性や効果的な広告方法などを日々吸収しているという。そうした新しい取り組みの1つとして行われたのが、QRコード決済対応を中心としたキャッシュレス決済の強化だ。