失敗を許容する文化を醸成するコツとは
ただし、カゴメのDXを進める上で、トップダウンはきっかけに過ぎなかった。渡辺氏は「社内に『変わりたい』という熱い思いを持ち、背中を押されるのを待っている人がいました。DXを進める際、社内の熱い思いが必須です」と語っていた。
実際、DX プロジェクトを推進するにあたり、全社員に向けて「やりたいコト」 を募集したところ、2週間で46件も集まったそうだ。このプロジェクトを進めていくにあたり、体制を工夫した。
村田氏は、熱い思いをDXに結び付けるにあたって、カゴメには「失敗を許容する文化」がなかったと語っていた。人間だれしもできれば失敗したくない。ましてや、仕事となるとなおさらだ。そこで、AWSのサポートを受けながら、数週間でプロトタイプを作っていく「アジャイル開発」に取り組み、失敗したらすぐに次の手を打つという「トライ&エラー」を繰り返すことができる体制の構築を目指した。
このプロジェクト体制が社員の心理的ハードルを下げたとのことで、これまで積み上がったアイデアは300件以上に上るそうだ。
さらに、村田氏は「失敗を許容するだけでなく、継続するKPIを設定すること、壁に当たった時にどう終わらせるかまで考えておくことも大切です。失敗を許容する仕組みが必要です」と話す。
共創者となりうるパートナーを選べ
一般に、DXに取り組むにあたり、外部のITベンダーと組んで行うケースが多いだろう。従来のシステム開発の場合、ユーザー企業のニーズに応えるのがITベンダーであり、いわばユーザー企業とITベンダーは緩やかな主従関係にあるといえる。
カゴメはこれからトマトから野菜の会社に変貌を遂げるため、「”野菜あるある”言いたいシステム開発プロジェクト」を立ち上げた。これは、野菜にまつわるデータを集めて、解析・可視化しようという試みだ。
このプロジェクトのパートナーを選ぶ際に重視したことは、これまでのパートナーのように、カゴメのニーズに応えてくれることではなく、「共に創る」ができるということだった。村田氏は、DXのポイントの1つとして「パートナーは共創者です」と語っていた。
現在、同プロジェクトでは、2000万件のデータをAIで解析して、“野菜あるある”をデータで証明するとともに、新たな発見もあったそうだ。
そのほか、「響灘菜園におけるサブスクリプション事業」「ライフスタイル提案アプリ 健康寿命延伸」「食生活のデジタル化」「野菜をとろうキャンペーン」といったプロジェクトが進んでいるという。
渡辺氏は、講演の最後に「カゴメのDXは、デジタルを使って人がトランスフォーメーションする。デジタルを使って、自分たちがどう変われるかがカギ。保守の壁にぶつかるかもしれないけれど、会社を変えていくことが大切。予算を心配することなく、とりあえずやってみましょう」と語っていた。
経営層の壁、失敗の壁、いずれも日本企業にとって「あるある」ではないだろうか。こうした壁がありつつも、会社の成長に向けて、DXに舵を切ったカゴメの取り組みは、多くの日本企業にとってヒントを与えるのではないだろうか。