金融機関の販売網が拡大
金融サービス仲介業という新業態の登場は、既存の販売チャネルを活用した販売機会を拡大させるという点において、既存の金融機関にも大きなビジネスメリットをもたらします。例えば、PFM(Personal Financial Management:個人資産管理)サービスにおいて、資産管理アプリなどを提供している事業者について考えてみましょう。PFMサービスに蓄積されている利用者の資産情報をもとに、利用者に適切な投資や保険サービスの提案が可能になります。
なお、金融サービス仲介業自体はあくまで仲介するだけであり、金融商品を保有していません。そのため、既存の金融機関と競合することはありません。むしろ、金融商品の販路として新たなチャネルあるいは新規顧客を切り開く販売パートナーとなり得るため、金融機関としては自社の販売網を拡大することが可能になります。
現在、金融サービス仲介業の取り扱い予定として、銀行サービスの普通預金や住宅ローン、証券サービスの国債や上場株式、投資信託、保険サービスの傷害保険や旅行保険、ゴルフ保険などが含まれています(詳細は政令にて指定)。
さらに、銀行法改正により、各金融機関は子会社または出資先として、「金融記入サービス仲介専門会社」および「銀行業高度化等会社」を傘下に持つことが許可されます。これにより、従来の信頼と顧客基盤を生かしながら、さまざまな金融サービスを独自のコンサルテーションや面白いデジタルサービスと掛け合わせて提供することができるようになり、各金融機関はより幅広い顧客との接点を持つことが可能となります。
スーパーアプリでビジネスを拡大させる海外勢
実際に海外ではどのような金融サービスがあるのでしょうか。東南アジア最大の配車アプリであるGrabは配車サービスという単一サービスから、スーパーアプリとして配車と食事宅配の組み合わせを主軸に東南アジア8カ国へ事業を展開しています。さらなる事業拡大として、金融サービスを取り入れ、世界4位の人口を誇るインドネシアで融資や保険商品の販売を開始しています。今後は、シンガポールを含め複数国へのサービス拡大予定を発表しています。
2020年2月には三菱UFJ銀行がGrabとの資本業務提携を発表し、ブルームバーグのインタビューにおいて、顧客の属性ごとに預金や決済、住宅や自動車ローンなど新たな金融サービスの可能性の検討として、「東南アジアで新しい金融サービスを収益化しながら挑戦する。将来的には日本やグローバルに展開することも考えられる」と述べています。日本国外でも良質な顧客データを保有する企業が、金融サービス業界への参入は、今後も活発化することが予想されます。
カスタマー・ファースト思想から開発される金融サービス
これまで見てきた通り、「金融サービス仲介業」の設立により、金融事業各社はその企業規模にかかわらず、平等なビジネス機会が与えられることになります。これまでは一部の大手企業を中心とした限られた枠組みの中でのみのサービス提供にとどまっていましたが、今後はこれまで以上に顧客の利便を中心に据えたカスタマー・ファーストな新規サービスの創出が推進されることでしょう。
金融業界内に存在する業種の垣根がなくなることで、これまで以上に顧客体験の質がサービスの成否を決定づけることが考えられます。金融サービスの運営経験のない企業であっても、データに基づく顧客分析、そこから解読した顧客インサイトを蓄積している企業として事業での活用実績があれば、新たな事業成長として、金融サービス仲介業は事業拡大の可能性を高めてくれます。
日本のフィンテック市場は欧米やアジア諸国に比べて遅れていると長年言われてきましたが、これを機に新生フィンテック企業の参入も期待できるのではないでしょうか。
後編では、企業が金融サービス仲介業として事業を展開するために意識すべきことに加え、具体的な変化として、ファイナンシャルプランナーがどのような顧客支援を実現することが可能なのかなどを紹介します。
関連資料
金融庁 事務局説明資料 https://www.fsa.go.jp/singi/singi_kinyu/soukai/siryou/20170303/04.pdf
金融庁「金融サービスの利用者の利便の向上及び保護を図るための金融商品の販売等に関する法律等の一部を改正する法律案 説明資料」
https://www.fsa.go.jp/common/diet/201/01/setsumei.pdf
MUFG社長、配車大手グラブと年度内に共同事業-案件候補は十数件 https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2020-07-13/QD756NT0AFCM01