社会的な要請や環境変化への対応として、近年は多くの企業が働き方改革に取り組んできた。ビジネスや組織、人材の育成・獲得といった各課題に順次取り組んできたわけだが、2020年にはコロナ禍によって否応なく即時対応が求められる状況になった。

かねてから進められていたジョブ型雇用や人事制度改革に加え、全社的なリモートワークの導入が実施されるようになった現在、注目すべきはマネジメントのキーとなるミドルマネージャーの役割や、あり方の再確認だろう。

リクルートマネジメントソリューションズ HR Analytics & Technology Lab 所長 同社 組織行動研究所 主任研究員 入江崇介氏

「コロナ禍という意図せぬ変化の中、企業に求められる変革のスピードが加速しています。環境変化や事業変化に伴ってマネジメントに求められることも変化する中、ニーズが高まるだろうと思われるのがマネージャーの科学、つまり優秀なマネージャーの特徴を科学的に明らかにしていくことです」と人事データ活用への注目度の高まりを語るのは、リクルートマネジメントソリューションズの社内研究機関である組織行動研究所、HR Analytics & Technology Labの所長である入江崇介氏だ。

リモート環境でのマネジメントや人材育成は、旧来のマネジメント手法で対応するには限界がある。新たな要求にどう対応すべきなのか、変革の時代に対応できるマネージャー像とはどのようなものなのか。その答えをデータ分析で導き出した根拠ある数字を元に語るのが、マネージャーの科学の1つの手法だという。

「これまでの勝ちパターンが通用しない中、素早く変化に対応しなくてはならないため、マネージャーにはより効率的に学んでもらわないとなりません。そのために科学的なアプローチが有効です」と入江氏は語る。

人事データを活用して優れたマネージャーの型を分析

「下記の図のように変化が激しいVUCA環境、ダイバーシティのある職場のなかでも、マネージャーのミッションである、『人を通じて持続的に組織の成果をあげる』ことは変わりません。しかし、安定的な環境で人材の画一性が高かった頃と比較すると、果たすべき役割の比重や、役割を果たすための方法が大きく変わっています。例えば、変化が激しいビジネス環境では、マネージャーだけの知識で解決することは限界があるため、情報の集団知で対応していくことが求められます。その際、多様な人材が目指すべき方向を合わせ、試行錯誤のなかでも本質を見失わないためにビジョンを描くことが重要となってきます。マネージャーの仕事の難度が高まっている、負担が増えているという実感がある方は多いと思いますが、間違いなく言えるのは、マネジメントが従来よりも創造的で人間的になっているということです」と入江氏。

  • VUCAと Diversity の中で役割を果すために必要なこと

ただ、このようなマネージャーの育成は難度が高いだろう。以前から特定の職域に関して、優秀層とそれ以外で何が違うのかを比較・分析するハイパフォーマー分析技術をリクルートマネジメントソリューションズは提供してきた。その知見を各社ごとの人事データの分析と組み合わせることで、優れたマネージャー像を明らかにし、像に合わせた育成をすることで、組織の変革やパフォーマンス向上を狙う取り組みが進められている。

  • 優れたマネージャー特徴を明らかにする

人事の持つ経験値が社内のデータを使った検証により実証されれば、現場の納得感が高まり、実践と検証の回転が高速化し、施策の質が高まることが期待できる。

マネージャーの科学として挙げられた2つの手法は、「優れたマネージャーとはどのような特徴を持っているのかを明らかにする」ことと、「優れたマネージャーになるためにどのように学ぶのが効率的かを見つける」こと。2019年からリクルートマネジメントソリューションズの支援を受けてこれに取り組み、第一段階である優れたマネージャー像の明確化を完了させ、第二段階へと踏み出しているのが富士通だ。