IoT普及のきっかけは社会のDX、企業の考え方にも変革が必要

一方で、IoTの導入にはまだまだハードルもあります。コロナ禍に見舞われた2020年を越えて、企業でもリモートワークやオンライン会議など、業務のデジタル化に向けた取り組みが動き始めましたが、諸外国と比べて日本のDX(デジタルトランスフォーメーション)は遅れをとっている印象です。

その原因の1つは、企業や政府がデジタル化に投資することをためらっていたことにあります。「成果が出るのかがわからないものに投資はできない」。そんな不安があり、現場はデジタル化によって業務の効率化を実現できることを理解していても、決裁権のある上層部は設備投資に消極的だったのではないでしょうか。

それが新型コロナウイルスの感染防止を目的としたリモートワーク拡大を受けて、企業は否応なしにデジタル化に動かざるをえなくなりました。書類やハンコの文化を撤廃しようという政府主導の動きに現れているように、政府がデジタル化を推奨するようになれば、日本の社会全体のデジタル化、ひいてはIoTの導入促進にとっても追い風となるのではと思います。

そして、IoT機器の普及を阻むもう1つのハードルが“設置コスト”です。

作業管理のIT化で、IoT機器設置工事のコストを下げる

IoT分野のプレイヤーは大きく3つのタイプがあります。IoT機器を生産するハードウェアのメーカー、IoT機器から取得したデータをクラウドで管理するシステムを作るソフトウェアのメーカー、そしてIoT機器を実際に設置する通信建設会社です。

ハードウェアとソフトウェアはここ数年でどんどん商品開発が進み、競争も起きたことで価格も下がっているため、手が出しやすくなっています。ところが、IoT機器を設置できる業者は非常に少ないのが現状です。

例えば、小売系の企業が「全国の店舗にIoT機器を設置しよう」と思っても、一括で請け負える業者が極めて少数です。理由は、機器自体は小さくても、数万~数十万台という設置工事をする必要があるため数多くの人手を必要とする割に、1個当たりの設置単価が安いことにあります。通信建設業界は多重下請け構造になっており、多くの会社にとっては単価の高い、巨大な通信インフラ施設を作る方が利益率も良く、IoT機器設置は割に合わないというのが現状です。こうした業界構造が、IoT導入を阻む障壁になっているのです。

今後、IoTが普及していくためには、多重下請け構造ではなく、協力会社へ直接仕事を依頼するシステムの構築や、設置工事のコストダウンに業界全体で取り組んでいく必要があります。ベイシスではこの状況を打破するために、全国優良会社との連携や機器設置工程をクラウドで一元管理することで、IoT機器の設置工事のコストダウンに取り組んでいます。

人の物理的な移動が制限され、オンラインでの消費やつながりが一般化した2020年は、IoT化にとって追い風となるでしょう。IoTが広く普及した社会では、人の流れや行動がより見えるようになり、一人ひとりに合った消費行動の提案や、自動化されたより快適な生活が実現できるはずです。そのために欠かせないのが、それらのIoT機器を活用するためのインフラ整備。そして何よりも、社会全体が「DXを促進しよう」と動き始めることが重要です。

著者プロフィール

ベイシス株式会社 代表取締役社長 吉村 公孝

新卒で独立系通信エンジニアリング会社に入社。パソコンや携帯電話が爆発的に普及していったことに影響を受け、地元広島で有限会社サイバーコネクション(現ベイシス株式会社)を設立。2006年東京へ本社を移転し、全国各地へ拠点を展開。現在は、通信エンジニアリングの分野だけでなく、電気通信工事のDX化を開始。また、インフラ構築・運用×テクノロジーを軸としたインフラテック事業で、業界のDXを推進。