既にBXを具現化している伊予銀行
黒川氏は、BXを成功させている日本企業の例として、伊予銀行を紹介してくれた。同行は社名からわかる通り、四国の愛媛県松山市に本拠を構える地方銀行だ。銀行に限った話ではないが、今後、人口減少が見込まれる中、日本企業の経営環境は厳しさを増すことが予想される。
そうした中、伊予銀行は10年先も必要とされる銀行となるために、デジタルトランスフォーメーションを推進している。経営層が先頭に立ち、顧客体験を軸に、ブランド構築、業務設計と全社規模で取り組んでいるそうだ。
例えば、同行は店舗タブレット「AGENT」を導入することで「どこでも銀行」を標榜している。店舗がない地域に住む顧客を訪問した時も、行員がタブレットを持ち出すことで契約まで済ませることができる。高齢者など、目が悪い方や機械に慣れない方でもタブレットの入力がしやすいよう、一問一答式のチャットボットや身分証の自動読み込みによる入力部分の削減も実現した。
加えて、住宅ローンやカードローンなどの新しいサービスも生まれており、顧客の反応に応じて体験を継続的にアップグレードしているほか、従来の「銀行」というイメージから脱却するために新しいブランドイメージと広告をデザインし、ブランド構築にも踏み込んでいるそうだ。
BXを成功させる秘訣とは?
では、BXというアプローチを自社で取り入れて、成果を出すには、どうしたらよいのだろうか。黒川氏は、BXに取り組むにあたってのポイントとして、以下の4つを挙げた。
(1)顧客のニーズにこだわり、それを羅針盤とする (2)顧客体験の改善と刷新を日常的に取り組む自社の習慣にする (3)組織全体で顧客体験にコミットする (4)データとテクノロジーを顧客の問題解決に結びつけるよう活用する
顧客のニーズについては、「本当の意味の顧客体験を考えなければなりません。そのためには、自社が何者であり、どんな価値を届けたいのかを突き詰める必要がある」と、黒川氏は話した。例えば、自動車をつくっている会社であれば、自社は移動の手段を提供する会社であり、世の中の移動体験を変えるといった価値を届けることができる。
また、組織全体で顧客体験にコミットするとなると、従来の縦割りの組織では、顧客のニーズにすばやく応じることが難しい。黒川氏は「体験を中心に組織を変える必要があり、その組織はフラットでなければいけません」と語る。
データに関しては、デジタルチャネルが拡大していく中で、顧客をユニークなIDで識別し、チャネルを横断したシームレスな体験を提供することが重要となる。これまで、商品を見てEコマースを利用する場合はデータが分断しており、局所的なデータしか集まらなかった。
しかし、デジタル化が進んだ今は違う。データによって顧客接点を把握することができる。そして、データを分析することで、サプライチェーンや物流の問題も把握可能になり、これらを改善することで、顧客体験を向上させていくことが可能になる。
コロナ禍だからこそ、今までのものを再構築すべき
黒川氏によると、当然ながら、日本の企業の経営層も現状に危機感を持っているけれども、何をしたらよいのか、わからない状態だという。
そこで、黒川氏は「新型コロナウイルスはわれわれの生活を一変させ、その結果、消費者の行動は変わりました。したがって、企業も顧客との接点や関係を再構築する必要があります」と語る。
正直なところ、再構築と言われても、簡単なことではないだろう。黒川氏によると、BXを進めている先進企業は自社ですべての課題を解決するのではなく、パートナー企業をうまく活用しているという。パートナーと長期的な関係を築くことも成功の秘訣だそうだ。企業の変革とは一長一短で成し遂げられるものではない。
グローバルの市場で戦う上でも、BXは重要になってくると思われる。今後、企業はBXを踏まえて、成長戦略を検討してはいかがだろうか。