公民共同エコシステムの構築
一方で、「アフターコロナにおけるスマートシティ戦略においては、公民連携ではなく「公民共同エコシステム」を実現させるべきだ」と、坪田氏は述べた。従来のスマートシティ戦略では公民連携が主流だったが、民間企業はもうからないために撤退することが多かったという。
「トヨタが人工呼吸器を、シャープがマスクを生産したように、これからは民間企業が正当なリターンを得ながら社会課題に取り組むことが重要だ」(坪田氏)
そこで大阪府は8月25日に、民間企業がもうかる仕組みを前提とした公民共同エコシステムの構築に向けたプラットフォーム「大阪スマートシティパートナーズフォーラム」を創設した。現在では、日本マイクロソフトや大阪府立大学など、302の企業や市町村、教育機関が参画している(2020年10月1日時点)。
大阪府では、公民共同エコシステムの構築に関して、もうかる仕組みづくりとあわせて、4つの基本方針を掲げている。この基本方針の前提として、行政が規制緩和の扉をこじ開けていくことは必須とし、大阪府スマートシティ戦略部がこの役割を担う。坪田氏は「全国において、一番規制緩和に注力する自治体になりたい」と、述べた。
民間企業がもうけられる仕組み作り
先ほども述べたように、公民共同エコシステムを実現させるためには、民間企業がもうかる仕組みを作ることが重要だという。坪田氏はこれに加えて、公金はできるだけ活用しないと語った。
「有償で提供しているユニクロのマスクには批判がなく、無償で提供したアベノマスクには、高いといった批判が相次いだ。それは、後者に公金が投入されているからだ。大阪府では、極力公金を投入せずに民間事業として社会課題の解決に挑めるようにする」(坪田氏)
また、参画している民間企業に対して行政が持っているデータを公開し、もうかりやすい環境構築の支援も行う。坪田氏は、「データを公開する代わりとして、企業にはもうかった資金をほかの事業に投資するのではなく、引き続き大阪のスマートシティビジネスに再投資してもらう」とし、サスティナブルなスマートシティビジネスモデルを目指す方針だ。さらに坪田氏は、公民共同の事業会社設立なども視野に入れている。
市場の見える化とオープンデータ化
坪田氏は、米国と比較して日本のスタートアップが不利な点として、人・物・金に続く情報の収集力が不足している点を挙げた。「新技術はAIやビックデータを活用するものが大半だ。大企業のようにビックデータを持っていないと開発に苦労する」(坪田氏)
そこで、民間企業、特にスタートアップやベンチャー企業が、市場の創出や発掘をしやすいような環境を構築するために、市場の見える化とオープンデータ化を行う。2013年5月に米オバマ元大統領が発令したオープンガバメント政策(政府情報のオープンデータ化を義務付けた)を見習い、徹底して政府や自治体の行政データを公開する方針だという。
スタートアップ・ベンチャー企業の育成
さらに、スタートアップやベンチャー企業に対しての育成にも注力する。坪田氏は、情報の収集力のほか、ビジネスモデル形成に対するノウハウ不足についても、日本のスタートアップやベンチャー企業が米国と比較して不利な状況であるとの考えを示した。 坪田氏は、「素晴らしい技術を持っていても、ビジネスモデルが作れないと意味がない」と語り、同フォーラムでは、米国を見習いスタートアップなどを支援していく社会的な取り組みを実行していくとしている。
1:1ではない行政サービス
4つ目の基本方針として、大阪府内の自治体間で重複なくソリューションを共有するための情報共有プラットフォームを作っていくと、坪田氏は説明した。
「従来の人手によるアナログな行政サービスは、都道府県や市町村において対象域内の住民に限定したものだったが、これからのスマートシティにおけるデジタルな行政サービスは、域外の住民や訪日観光客なども対象にしたボーダレスなものを目指していく」(坪田氏)