新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大の影響が、各国・自治体でスマートシティに向けた取り組みを加速させている。大阪府も、規制改革や行政手続きのICT推進などを目的とし、府庁版のデジタル庁として「大阪府スマートシティ戦略部」を2020年4月に創設した。
同事業部は民間人材をトップに置いており、元IBM 常務執行役員の坪田知巳氏が同事業部長に就任し(現 大阪府CIO 兼 スマートシティ戦略部長)、企業・市町民と公民共同となってスマートシティを推進している。
そして同年8月には、府民の健康増進、高齢者支援、インバウンド再生、教育課題などに取り組むため、300を超える企業や市町村、大学が参画する「大阪スマートシティパートナーズフォーラム」を立ち上げている。さらに大阪府は、国が推進している「スーパーシティ構想」に対して大阪市と連携し立候補している。21年春頃に、スーパーシティ区域として指定された自治体が発表される予定だ。
このほど、NECが開催するオンラインイベント「NEC Visionary Week」に坪田氏が登壇し、同事業部のコロナ禍における取り組みや、大阪スマートシティパートナーズフォーラムが目指す6つのエコシステムなどについて説明を行った。本稿ではその内容を基に、大阪府が目指すスマートシティ戦略を紹介したい。
大阪府のコロナ禍における対応
20年4月創設した大阪府スマートシティ戦略部が最初に取り組んだのは、ITを活用した新型コロナウイルス対策だ。
5月12日に提供を開始した「大阪コロナ追跡システム」は、飲食店やイベント施設などを対象に、QRコードを活用し、感染者との接触の可能性がある利用者にメールで注意喚起を行う感染拡大を防ぐ取り組みだ。
現在、QRコードを店舗に導入している飲食店やイベント会場は5万件を超え、利用者登録件数(QRコード読込み実績)は約270万件に上るという。
また8月18日、同システムに新機能が追加された。その新機能とは、府民が飲食店で同システムにメールアドレスを登録した際に大阪府から自動で返信される一律の登録確認メールで企業広告の表示(NECや日本生命など約50社がスポンサー)や大阪マイル(1回につき1マイル貯まり、10マイル貯めると景品が当たる抽選に応募可能)の獲得が可能になるもの。
加えて、それぞれの飲食店において注文から会計までの一連の流れがスマートフォンで完結するようになった。感染症対策をしっかりと講じながらキャッシュレス決済も同時に推進するシステムとなっている。
そのほか、5月29日に「大阪コロナ追跡システム」への府民からの殺到する問い合わせに対応するためAIチャットボット(NEC提供)を導入するなど、コロナ禍においてさまざまな取り組みを行ってきている。
スマートシティに影響を及ぼすニューノーマル
同イベントにて坪田氏は、「新型コロナ対策で日本が他国に遅れを取った原因は、省庁の縦割りや技術の遅ればかりではなく、個人情報の取り扱いに対する国民的な議論がなされていない状況のまま新型コロナを迎えてしまったことだ」と語り、アフターコロナにおいては、データ民主主義の主役が地方自治体になるとの見解を示した。
スイスIMDが10月1日に公表した「20年度版デジタル競争ランキング」によると、日本は27位(19年度は23位)と、年々後退していることが分かった。日本は51ある審査項目のうち、「人材の国際性」「企業のスピード感」において非常に点数が低く、「ビックデータの活用」については63カ国中最下位だったという。
「日本はデジタル技術においては他国に劣っているどころか逆に勝っていると思う。しかし、ビックデータの活用に関しては、個人情報についての議論不足により、うまく機能していない」(坪田氏)
実際に、大阪コロナ追跡システムにおいても、登録者のメールアドレスを大阪府が管理することに対して、府民から多くの批判の声が寄せられたという。「東京オリンピックに向けてこういった議論がなされなかったのは残念だ。大阪では批判覚悟で議論を進めていく」と、坪田氏は明言した。特に、配慮が必要な個人情報である、病歴や診療情報、健康診断情報などのヘルスデータに対して議論を進める方針だ。