グリーのバーチャル株主総会
続いては、グリーのバーチャル株主総会の事例を、同社法務総務部シニアマネージャーの松村真弓氏が紹介した。
松村氏によると、同社は数年前から株主総会へのIT技術の導入やバーチャル化を推進しており、今回のハイブリッド出席型バーチャル株主総会の開催は、そのマイルストーンの1つだという。
同社ではまず、2017年に総会の360°のオンデマンド配信を実施した。これは、同社のVR事業で使用するカメラなどで総会中に360度のカメラ撮影を行い、その映像をオンデマンドで配信したものだという。
続く2018年には、総会のダイジェスト動画をオンデマンド配信した。この7分ほどの動画は「結婚式のメイキングビデオのようなもの」(松村氏)で、総会の前日リハーサルや準備している様子、当日に役員が裏動線で入場する姿、想定問答で答えている役員の後ろ姿、裏方の事務局の様子などを撮影したものだという。
そして2019年には、双方向の参加型バーチャル株主総会を開催した。
これらの取り組みには、IT技術の導入とバーチャル化を推進しながら対話を深化させ、経営リソースをいかに効率的かつ効果的に株主総会で生かしていくかが、一貫して背景にあると松村氏は語る。
2020年の株主総会は、同社の本社に設置しているエントランスラウンジカフェという共有スペースで、9月29日に開催した。株主数は6月30日の時点で2万7987人だが、実際に毎年総会に参加しているのは、そのうち1%未満とのことだ。コロナ禍の影響もあり、2020年の総会では会場で出席する株主を最大15人に、事前申込の形で制限したという。
松村氏は総会の実施概要について、物理出席とインターネット出席に分けて説明した。
物理出席では、バーチャル化の推進に加えてコロナ対策を挙げる。そのため、会場規模の縮小と前述の人数制限を実施したが、議決権行使についてはインターネット出席の株主と同等にするため、投票用紙を採用したとのことだ。
インターネット出席の株主に関しては物理出席と同等の権利行使を可能にし、「物理出席の株主と同じ1つの会に参加しているという一体感を持てることを、重要なポイントとして考えました」と松村氏は振り返った。
システムの選定に際しては、これらのポイントを重視したと松村氏は語る。
続いて松村氏は、出席方法別の基本設計を解説した。
インターネット出席の株主に対しては、「グリー株主総会Portal」という空間をブイキューブが用意した。 ここでは、事前質問や出席申し込みの受付、グリーからの情報発信などを行ったという。
質疑応答については、物理出席の株主にはコロナ対策の関係から、上限3人までを事前に指名する形式にしたとのこと。インターネット出席の株主に対しては、文字数や質問回数を制限した。これは、コロナ対策というよりは運営における制限だったと松村氏は語る。
質疑応答に対応するスタッフとしては、物理出席の想定問答に対応する人員の他、インターネット出席株主への対応として2人追加したという。
松村氏の説明は、グリー株主総会Portalに移る。
同ポータルの1ページ目は、出席申込と事前質問の受付だ。今回はコロナ禍の影響で物理出席を遠慮してもらうよう案内したが、どうしても出席したいという株主には、その理由の記載を必須とした。
インターネット出席の配信画面は、中央にライブ中継の映像を配置し、その右側に質問タブを設置した。
議決権行使の画面では、賛成か反対かをワンクリックで選択する方式として、選択しない場合は棄権扱いとした。また、行使に関する案内を記載するよう、ブイキューブにカスタマイズを依頼したとのこと。
実際の画面を用いた流れの紹介に続けて、松村氏はハイブリッド出席型バーチャル株主総会のポイントとして、1.物理出席株主とインターネット出席株主との一体感の醸成、2.質疑応答への対応、3.議決権行使・集計の3点を挙げる。
まず、一体感の醸成について。松村氏は他社の株主総会に、2020年6月にインターネットから出席したとのこと。そこでは、「会場の進行状況や今何をアクションとして取るべきかが、わかりづらいと感じました」と振り返る。自社の総会では、インターネット出席の株主に物理出席と遜色ない一体感をどう持ってもらうかを、自身の体験を生かして検討したと松村氏は語った。
一体感を得るために、配信画面にもさまざまな工夫を凝らしている。まず、ライブ中継の画面では、スピーカー(話者)を大きく表示し、説明スライドがある場合は左上に小さく表示するレイアウトを基本とした。スライド内容の説明が中心となる場面では、そのスライドを大きく表示しつつ、会場の様子も見せるようにした。拍手を求める場面では、物理出席の株主には拍手の写真、インターネット出席の株主には拍手ボタンの説明というように、並列で表示した。
質疑応答への対応として、松村氏はまず事前質問の導入を挙げる。これにより、広い層の多くの株主から、総会で実際に質問できるか否かに関わらず質問を受けることにより、対応の深化を図ったとのことだ。
コロナ対策の一環として、総会の時間短縮のため質問数の制限をブイキューブによるシステム設定により設けたが、このことでプラスの効果もあったと松村氏は語る。
例えば、株主側には自身の質問を整理して送信するという効果があり、また取り上げられなかった質問に対しては、整理した上で質問と回答をオンデマンド配信画面に一覧表の形でアップした。「総会終了後も、質問に対する回答を事業部の責任者に確認するなどしてアップできたことも、メリットとして考えています」(松村氏)。
対応スタッフは2人体制とし、うち1人は受信した質問を常時チェックした。どの質問を取り上げるかは事前に選定基準を設定し、総会の目的事項に関連性が高い質問は優先的に取り上げるという基準を設けたとのことだ。
3点目の議決権行使に関して、行使状況の発表が無く承認可決という流れで運営すると、一体感や納得感の醸成に繋がらないと松村氏は指摘する。そこで、「インターネット出席・物理出席の株主両者の一体感を醸成するため議決権行使の集計を行い、その発表を行うことにこだわりました」(松村氏)という。
採決方法の説明終了から行使の締切までは約3分、行使締切から集計結果の発表までは約4分、合わせて約7分の時間を取ったとのこと。この間は株主を待たせることになるが、松村氏によると「ただお待たせしたり休憩時間にしたりすると一体感や納得感の醸成には繋がらないと考え、CSRの動画を流しました」とのことだ。
具体的には、インターネット利用時のリスクを、社員がマスコットキャラクターと共に説明するセミナーを撮影した動画を流したという。株主には興味深く見てもらえたことに加え、普段からそうした動画を見てもらうきっかけにもなったと松村氏は語った。
最後に松村氏は、今後の課題を2点指摘した。 まず1点目は、バーチャルオンリー型総会の実証をしたいというもの。
松村氏は、株主総会の形は会社の数と同じくらい存在すると思っており、株主総会のあり方や最適解は多様な形があってしかるべきだという。 同社は、インターネット技術を利用してエンターテインメントのように臨場感を楽しんでもらう総会を実施しているといい、他社に関してもバーチャルも含めた総会形式を自由に設計できる形にしてもらいたいと強く思っているとのことだ。
動議について、松村氏は「物理出席を遠慮してもらっているのにインターネットからの動議提出を受け付けないのは運営上の矛盾が生じます」と語り、今後のバーチャル株主総会に向けた実践ノウハウを重ねる意味でも対応したという。
2点目は、株主との対話について。 総会のインターネット配信に関して、冗長化や数次のリハーサル実施などで安定感のある配信ができたと松村氏は語るが、システム障害など何が起きるかわからない面もあると指摘する。 例えば事前質問を受け付けることによって総会の短い時間の中で対応しきれないことを分散させたり、機関投資家と事前に電話ミーティングしたりするなど総会以外の場による深化を例示した。
同社では株主総会のためにポータルサイトを設置したが、これを総会終了後にも対話の場として利用しコミュニケーション深化の手段とすることで、システム障害を含むリスクを低減できるのではないかと松村氏は指摘し、講演を締めくくった。