通販や文化事業でも「読者のため」という目線は同じ

通販、文化事業も、雑誌と連動することで相乗効果が出ている。通販では、「特集と関連した商品を扱うようにしました。雑誌を読んで読者が興味を持った時に、悩みを解決するための具体策として商品が手に入るような連動を心がけています」と山岡氏。

例えば、雑誌でグレイヘアを特集として取り上げた時は、通販では専用のヘアカラーを注文できるし、誌面を監修した美容家の講演会を聞きに行くこともできるという具合だ。興味に沿った商品が購入できるようにしたことで、通販の売り上げも順調に伸びているという。

雑誌で貫く「読者のため」という目線は、通販や文化事業でも同じだ。通販の7割を占めるプライベートブランド商品は、読者の意見を聞いて作っている。「女性服の場合、Mサイズといっても、若い人のMサイズとは違うことが多い。ハルメクはシニア女性の体型を調べて、洋服を作っています」と山岡氏は語る。

例えば、売れ筋の「3Dセリジエ・パンツ」はサイズだけでなく、体型別にも細かく分類して提供している。また、素材も肌になじみがいい素材を用いるなど、時間をかけて読者のニーズを徹底的に分析している。

山岡氏は、文化事業の好例として、「きくち体操」で知られる菊池和子氏の講座を紹介してくれた。この講座は、ハルメクの誌面でも連載があり、読者にはおなじみの菊池氏が年に1回、実際に体操を教えるもので、毎回キャンセル待ちが出る人気講座、満足度も高いそうだ。単発のイベントとしては、京都のピアニスト、カズコ・ザイラー氏のコンサートも大成功だったという。「京都の茅葺き屋根の家を音楽堂に改装してコンサートをしていることを雑誌で取り上げ、文化事業部と相談してイベントを企画しました」と、山岡氏は話す。

データ活用の成功の秘訣は、データの先を読み解くこと

データ活用は今のトレンドであり、さまざまな企業、組織がデータを活用して、事業を成功させようとチャレンジしている。はたして、データ活用のコツはあるのだろうか? 山岡氏に聞いたところ、次のような答えが返ってきた。

「データを集めたり、集計したりすることはどこでもやっていますが、ハルメクでは、そこから何を読み解くか、読み解いた結果から雑誌の企画をどう組み立てるのか、とその先に2段階があります」

例えば、「ボランティアに興味はあるか?」と尋ねると、ほとんどの人が「ある」「やってみたい」と回答するが、実際にやるかどうかには必ずしもつながらない。「調査の回答と、本当にそれが知りたいことなのか、お金を出してでも雑誌の情報として読みたいところなのかにはギャップがあります。そこを読み解けるようになる必要があるのです」と山岡氏。「読者自身も自分たちが本当に何を知りたいのかわからないことがあるので、そこをデータから上手に読み解いたり、想像したりするというテクニックが必要」と続けた。

山岡氏が今後の展望として挙げたのがWeb事業だ。ハルメクは2018年にWebサイトを立ち上げ、通販でもECを本格的に稼働した。新型コロナウイルスの影響もあり、最近イベントや講座もオンラインを始めたところだ。

「5年後、10年後のシニアは紙じゃなくてネット、通販の注文も電話ではなくてネットという予測を立てています。シニアをターゲットとしたビジネスを展開している以上、将来に備えなければなりません。われわれもそこに対応していくため、Webへのシフトを進めています」と山岡氏。

Webでは現在、気軽に読めて役に立つオリジナルの記事が中心というが、今後は読み物も充実させていきたいという。「感動したり、毎日読んで心の支えになったりするようなコンテンツをWebでもできたらいいなと思っています。そういう記事は検索で引っかかりにくく難しいのは承知していますが、それでもここにくれば心に響く読み物がある――そんな存在になりたいですね」と、山岡氏は目を輝かせた。