講演の後半では、企業のSNS運用の疑問や悩みについて、加藤氏と吉田氏が語り合った。
まず話題に上がったのは、企業SNSの“炎上”の問題だ。これまでも、不祥事などを理由にSNS上でさまざまな“炎上”が発生しているが、SNSの運用を検討しているマーケターからは「SNSは炎上するのが怖い」という声も挙がっているのだという。
これに対して吉田氏は、「過去の経験から言うと、そんなに恐れることはない。社内でも不安な声は上がったが、企業の公式アカウントがあるかないかで炎上の起こりやすさは大きくは変わらない。炎上はよくSNS上で発生するが、その理由を深堀すると、公式アカウントの発信は関係なく、もともとの商品やサービスで起こっていることがほとんどだ」と指摘。加えて、「何かあったときにちゃんと説明できる場所として、公式アカウントはプラスになる部分もある」とも説明する。
例えば、企業に何かしらのインシデントが発生してSNS上で“炎上”が発生した場合、状況説明や原因と対策の説明を発信したいときにプレス発表のみに留まってしまうと、それがニュースにならない限りなかなか消費者のもとには届かない。このような場合には、発表内容をちゃんと伝えることができ、しかも拡散しやすいSNSを活用したほうが早く消費者に情報を届けられる場合があるのだ。
「説明できる場所を持っているというのは、非常に大きな意義がある」(吉田氏)
次に盛り上がったのが、SNSに見られるデータの変化をどのように解釈するかという点だ。吉田氏は「SNSのデータは全体感で捉えることが多い」というが、実際にどのようにデータの変化を解釈してくべきなのか。この点について、吉田氏はデータを塊で捉えるのではなく、具体的なツイート内容=顧客の意見をビジネスに活かしているのだという。
「“データは連結させてこそ”という部分もあるが、必ずしも複雑な使い方でなくても、ある言葉を含めたツイートを網羅的にみてどのような意見があるのかをチェックするといった活用法もある。特に飲食業では、顧客の意見に商品開発のヒントが多く含まれている」(吉田氏)
一方、加藤氏は全体感でデータを見る上で、SNS上で生まれる盛り上がりが生み出す「波」に注目しているという。
「ひとつのことで盛り上がるとさらにそれが増幅していき、盛り上がりを見て買いたくなる人が増える。そして、買いたくなった人を見てさらに買いたくなる人が増えるという具合に、どんどん増えていく」とSNSでの盛り上がりが生み出す波及効果を説明する。
「波は急に盛り上がったり急に引いたりする。仕掛けどきはいつなのか、どういうテーマだったら波が起こせるのか、データを見ているとわかってくる」と加藤氏。こうした加藤氏の意見に対し、吉田氏は「SNS上での盛り上がりと販売数の推移の相関性を探れば、別の視点での効果を可視化できるのではないか」と応えた。
最後に、「SNSを運用していく上で、データや感情のバランスをどう取っていくべきか」という疑問について、意見をまとめた。
吉田氏は「SNSは感情の部分ではあるものの、むやみやたらに“うれしい”“たのしい”ではダメ。どういうツイートをしたら高いエンゲージメントが生まれるのか、多くの人に見てもらえるか。そこがひとつのポイントだ。そこで必要になるのはやはり“数字”。パッションの世界であっても、数字をしっかり見ていくことは非常に大切ではないか」とコメント。またこれに対して加藤氏も、「人の気持ちが動いているところにもっとデータ分析を上手に活用していければ。うまくデータと感情の連携を進めていきたい」と応えた。