益田市は地方都市の「縮図」

--日本に数ある地方都市の中で、なぜ益田市を選んだのでしょうか。

豊崎:益田市は、調べれば調べるほど興味深い。四季折々、自然が豊か。市内には、2019年11月より中国地方で先行公開されていた映画のタイトル「高津川」と同じ名前の清流が流れています(4月23日時点では全国公開は延期されている)。

上流には環境に配慮した流水型ダム(穴あき)が設置されており、コンクリートで覆われた護岸が少ない。従って、流域の雨量がしきい値を超えてしまうと、水害に見舞われてしまいます。人口はわずか5万人弱。少子高齢化が急ピッチに進んでおり、人口は減少する一方です。このままでは、「消滅自治体」になってしまう危機感がある。つまり課題が多く、日本の地方都市の「縮図」のような街だったのです。

2015年10月28日にシマネ益田電子の会議室に、同社のエンジニアのほか、銀行や県庁/市役所の人たちを約50名集めてもらい、私が「課題解決型スマートシティ」のマスタープランを披露しました。具体的には、益田市の将来はこうなる。だからスマートシティを構築して、新しい街を作らなければならない。そうすれば、人口を増やすのは難しいが、関係交流人口は増やせる。北には石見銀山、南には津和野や萩といった全国的にも有名かつ魅力的な観光資源があります。益田市にも数多くの室町時代の文化史跡・遺跡がありますが、残念ながら、観光ブランド力に乏しく、観光客はあまり訪れません。しかし、歴史ある山陰地方にテクノロジのショーケースを作ることができれば、ビジネスや視察などで多くの人を集められると説いたわけです。

--:益田市では、どのようにプロセスでスマートシティを構築していったのでしょうか。

豊崎:まずは益田市の悩みをアンケートによって調査しました。この第1回目の調査調作業には、橋本さんにも参加してもらいました。この結果、水害という悩みを抽出できたのです。街中に水路が張り巡らされているため、樋門を適切に調整しないと浸水や冠水が発生する。水害は毎年発生しており、実際に市役所には市民から多くのクレームが来ていたと言います。

--:水害という課題をどのように解決したのですか。

豊崎:課題が分かった時点ですでに、AGDとオムロン、慶応義塾大学大学院と共同で開発したIoTプラットフォームが完成していましたので、これを流用しました。気圧センサーとLPWA対応の通信機能を統合し、水位計に最適化したソフトウェアと筐体を3カ月程度で開発。その後、すぐに島根県内の企業と共同で実証実験に着手しました。

  • 水位計

    市内の河川に設置された水位計

  • 水位計モジュール

    水位計モジュール

--:もともとスマートシティのプロジェクトは長崎市で導入することを検討していたそうですが、なかなか始められなかった一方で、益田市では順調にスタートが切れました。この違いは、何だと考えていますか。

橋本:長崎市は人口が約41万人で、全国的にみれば大都市です。それだけに抱えている課題が多岐にわたり、それを的確に抽出するのが難しい。一方の益田市は人口が5万人弱と少ないため、比較的簡単に課題を抽出できます。このくらいの規模の地方都市から、IoT技術を使った課題解決型スマートシティを構築するのが現実的でしょう。

実際に益田市でスマートシティの構築に携わっていると、大都市と地方都市の課題に大きな違いがあることに気づきます。益田市が抱えている課題としてはまず、水害があり、その次に鳥獣害や高齢者対策などが続きます。しかも高齢者対策の中身は大きく違う。大都市では高齢者がギュッと集まって住んでいますが、益田市ではポツンポツンと離れて暮らしています。そうした高齢者たちをいかにケアするのか。地方都市に特有の課題と言えるでしょう。

さらに人口減少で言えば、まばらに住んでいる人たちにどうやって行政サービスを提供していくかが大きな課題になります。これは地方都市に共通した課題です。こうした課題をひとつ一つ解決していくことで、益田市は大都市型ではなく、「地方都市型スマートシティの旗手」になることができると思います。

実は、私が農林水産省に勤務していたとき、まばらに住んでいる人たちに対する行政サービスの提供という課題にかかわっていました。そのため、最初は少し応援するつもりで参加したのですが、気が付いたら代表理事に就任していたという具合です。

  • 橋本氏

    橋本剛氏