2019年1月に、レノボ・エンタープライズ・ソリューションズの代表取締役社長にジョン・ロボトム氏が就任して、早くも1年が経過した。レノボ・エンタープライズ・ソリューションズは、サーバやストレージをはじめとするレノボのエンタープライズビジネスを担当するデータセンターグループ(DCG)を日本で展開する組織だ。
ロボトム社長は、「2019年は、リビルドの1年。組織を変えて、パートナーとの関係を強化し、ThinkSystem SE350などを切り口として、これまでとは異なるソリューションの提供を開始した」とする一方、「2020年はアクセルを踏み込む1年になる。ハイパーグロースをアクセラレート(急成長を加速)する1年になる」と語る。就任以来の取り組みと、2020年の日本における事業戦略について、ロボトム社長に聞いた。
レノボ・エンタープライズ・ソリューションズ(レノボデータセンターグループ)では、「Intelligent Transformation(インテリジェントトランスフォーメーション)」というメッセージを発信しています。この意味はなんでしょうか?
ロボトム:DCGのビジョンは、最も信頼されるデータセンターパートナーとして、お客様のインテリジェントな変革に貢献することで、人類最大の課題を解決することです。それを実現するために、レノボのDCGが取り組んでいるのが、「Intelligent Transformation」ということになります。よく聞かれるのは、これはデジタルトランスフォーメーションとどこが違うのかということです。ひとことでいえば、デジタルトランスフォーメーションを実現する上で、データをどう生かすのか、AIをどう活用するのかといったことを含め、End to Endでのトランスフォーメーションを支援し、業務の生産性向上や効率性追求、全体品質の向上などを図るのが、DCGが取り組むIntelligent Transformationということになります。
具体的には、精度を90%にまで高めることができる「Predictive Analytics(予測分析)」、ソリューション提案と結果シミュレーションによるスマートな決定を行うための「AI」、迅速な意識決定につながる取引先データの活用を支える「Blockchain」、あらゆるものをカスタマイズしてスケールする「Autonomous Things」といったように、サプライチェーン全体に対して投資を行い、ここで得た知見もお客様と共有していくことになります。
また、Intelligent Transformationの実現に向けて、「Smart IoT」、「Smart Infrastructure」、「Smart Verticals」という3つのSへの取り組みを加速しています。とくにIoTにおいては、2025年には全世界で11兆1000億ドルの規模が見込まれ、日本でも2022年には11兆7010億円の市場規模が見込まれています。そのなかでは、アプリケーションやソフトウェアが最も成長すると予測されていますが、サーバやストレージといったレノボが得意とするハードウェアも年平均成長率は10%に達します。そうした成長市場に対して、DCGは投資をしていくことになります。
また、コマーシャルIoTも、レノボが掲げる重点領域のひとつです。コマーシャルIoTは、小売や製造、医療、文教といったあらゆるところに広がりをみせ、ホテルやショッピングモール、スタジアム、アミューズメントパークで活用されたり、監視カメラの映像分析、デジタルサイネージとの連携なども進んでいます。こうした領域をパートナーとともにカバーしていくことになります。
「Smart Infrastructure」では、どんな取り組みが始まっていますか?
ロボトム:インフラにおいては、膨大なデータを処理することが求められており、ここにきて、エッジコンピュータに対する需要が増加しています。日本では2019年9月に発売したThinkSystem SE350により、これまでにはないような新たな会話が、お客様と始まっています。言い換えれば、レノボにとっても新たな商談が生まれているというわけです。ThinkSystem SE350はレノボ初のエッジコンピュータで、小型でありながら、過酷な環境でも利用できる耐久性と信頼性に優れ、これまではサーバを設置できなかったような場所にも設置ができる。また、GPUも搭載していますから、現場でのAIの活用や画像処理、音声処理にも対応できます。これにより、製造や医療、物流、小売などにも用途を広げ、Smart Verticalsという領域にも踏み出しはじめました。製造業においては、フォークリフトの車載コンピュータや生産ラインなどに設置されるカメラなどから発信されるデータを映像分析して、生産現場の効率化や改善などに活用することができます。さらに、流通においては、ショッビングモールでの店舗情報の分析、映像分析、動線分析にも活用。物流では、配送センターにおける業務プロセスの改善に、音声認識技術を活用し、作業を効率化するためにThinkSystem SE350を導入するといった例が出ています。配送センターのオペレータには、海外の人材を活用する場合もあり、音声認識技術によって異なる言語でも理解できるようにし、多くの人材が作業を行うことができるようにしています。さらに、移動中のクルマや鉄道などに搭載し、運転手や乗務員の表情から疲労度を判断して、警告を出したりといったことも検討が始まっています。まだ、実証実験段階のものが多いのですが、日本でも先進的な取り組みが始まっているのは確かです。こうしたSmart ManufacturingやSmart Logisticsの分野においても、エッジやAIを活用したIntelligent Transformationの提案を行っていきます。
さらに、ここにセキュリティやブロックチェーン、ドローンといったホリゾンタルへの取り組みを合わせた提案をしていきます。たとえば、アイネットとの協業で進めているドローンによる4K映像AI分析ソリューションは、その場でリアルタイムのデータ処理が求められており、ここにレノボのゲートウェイ製品の「ThinkCentre M90n-1 Nano IoT」でデータを収集し、エッジサーバの「ThinkSystem SE350」を活用してAIによって分析するといったことが可能になります。
ThinkSystem SE350は、想定以上の勢いで導入が進んでおり、さまざまな用途に導入が広がっています。また、ThinkSystem SE350は、「Microsoft Azure Stack HCI」や「VMware vSAN Ready Node」の認定も受けているので、HCIとしての利用も可能ですし、今後は、ファンレスモデルも追加する予定です。
しかし、ThinkSystem SE350は、いい製品ができたので導入しませんか、という提案ではなく、それによって何ができるのかといった提案こそが重要です。この製品をきっかけにして、プロダクトアウト型のビジネススタイルから、ソリューション提案によるマーケットイン型のビジネスへのシフトを加速したいと考えています。
今後も、Intelligent Transformationの領域には投資を加速しますが、Intelligent Transformationを推進するには、パートナーとのさらなる緊密な関係構築が重要と考えており、私たちはパートナーやお客様に学ばせてもらいながら、新たな提案を進めていきたいと考えています。