進化する車載ネットワーク

自動車メーカーはドライバーの安全と利便性を強化するために、高度な電気系統の使用を増やしています。安全性、エンジン管理、ナビゲーション、インフォテインメントなどの機能を支えるために、最新の自動車には30~100個もの電子制御ユニット(ECU)が搭載されています。そうした車載用エレクトロニクスで急成長を遂げているコンポーネントの1つが、高度運転支援システム(ADAS)ですが、その利用が拡大するにつれ、膨大なデータが生成され共有されるため、自動車内の接続系統に大きな負担がかかるようになっています。

既存の車載シリアルバス技術では、ADASのデータ転送速度と帯域幅の要件に対応できませんし、自動車メーカーが必要とする将来性のあるプラットフォームを実現できるような拡張性もありません。

オフィスだけでなく、最近では工場などでも普遍的に存在するイーサネットプロトコルがこの問題の解決策となる可能性もありますが、リアルタイム性能に課題があり、車載EMIと環境条件への対応面でも問題があります。 より高速なオンボード通信ネットワークの必要性を認めたOPEN Allianceは、当初はBMWおよびBroadcomが開発したコンセプトを採用し、「BroadR-Reach(ブローダーリーチ)」という車載イーサネットプロトコルを発表しました。

ADASの膨大なデータ量と転送速度に対応するほか、従来の配線ハーネスの車載イーサネットへの置き換えは、80%の接続コスト削減や最大30%のケーブル重量の軽量化など、数多くの利点をもたらします。

この新しいイーサネット規格により、これまで確立されていたテスト手順も大きく変わります。また、自動車開発エコシステムのサプライヤ、システム開発者、メーカーは、物理層、プロトコル、コンフォーマンステスト、セキュリティとハーネスの包括的なテストを確実に実施する必要があります。 システム開発者は広範囲にわたる最新テストソリューションを利用して、テストの簡素化と迅速化を実現し、製品化までの時間を短縮することができます。

車載テクノロジーの進化

自動車の電気系統の複雑化と共に車載テクノロジーの採用が急速に進み、インフォテインメント、ADAS、エントリーシステムなどのパワートレイン/車体エレクトロニクスなどの用途が可能になります。平均的な新車に搭載されるECUは、複雑さの面でも数の面でもここ10年間で倍増しています。

安全性はこの技術の発展を促す主な要因です。アダプティブ・クルーズ・コントロール(ACC)、自動緊急ブレーキ(AEB)、ブラインドスポット監視(BSD)、車線変更支援(LCA)、車両脱出支援(VEA)、衝突前警告(PCW)など、幅広いアプリケーションが次々と登場しています。

これらのアプリケーションは、レーダー、カメラ、LiDAR、超音波などの高度なセンサーテクノロジーに依存しています。図1は、自動車の周辺環境と物体の正確かつタイムリーな情報を各ECUが受け取り、予防的または修正的な動作を可能にしていることを示しています。

同時に、ワイヤレスネットワーク技術の進化はコネクテッドカーのコンセプトを生みました。しかも5Gの登場と共に、V2Xテクノロジーにより自動車は、他の車両、歩行者、道路付近のインフラストラクチャおよび監視センターなど周囲の環境とデータを共有することが可能になります。

このようなシステムは膨大な量のデータを収集、処理、生成、共有しますが、一部のアナリストによるとこのデータは1日で4TBにも達します。これは既存のオンボード配線システムと通信プロトコルにとって多大な負荷となります。

車載イーサネットの出現

このような車載テクノロジーの進化により数々のシリアルバスシステムが開発されました(表1)。それぞれ異なる特性を持ち、別々のアプリケーションのサポートを目的としています。

新たなアプリケーションの成長と、それぞれ個別の通信要件により、平均的な自動車では配線ハーネスが3番目に重く、3番目に高コストのコンポーネントになるという状況が生まれました。最大ではアセンブリ全体の50%を占めることもあります。

  • 車載イーサネット

    表1:一般的な車載用シリアルバス技術

このような車載ネットワークのコストと複雑さは、新型車の商品化にかかる時間に悪影響を及ぼすようになってきました。また、古いシリアルバスシステムでは、新たに登場するアプリケーションの急速に拡大するデータスループットと容量のニーズに対応するのが困難になってきました。

広帯域、拡張可能なネットワーク、将来に対応できるオープンなアーキテクチャといった要件を特定し、BMWはBroadcomの協力を得て、カスタマイズしたイーサネットテクノロジーの一種であるBroadR-Reachを開発しました。この新しいイーサネットPHYソリューションは、車載EMCの要件を満たす一方で、1本のツイストペアを使用することで重量を削減します。こうしたBMWとBroadcomの協力関係は、BroadR-Reachテクノロジーを採用・推進するベンダーとパートナーのエコシステムであるOPEN(One Pair Ethernet)Allianceの形成につながりました。同アライアンスは、車載用アプリケーション向けイーサネットPHYソリューションのさらなる開発の促進に努めています。

自動車業界に固有の要件に対応したイーサネットソリューションの必要性の高まりを受けて、IEEEは100Base-T1とも呼ばれる802.3bw-2015イーサネット規格を発表しました。これはBroadR-Reachを元にした規格で同規格との相互運用性があります。

BroadR-Reachは、100Base-Tプロトコルと1000Base-Tプロトコルのハイブリッド規格で、それぞれの長所を生かし、車載用アプリケーションに最適な特性を強化しています。データレートを125MHzから66.67MHzに削減することで、BroadR-Reachは比較的低品質かつ低コストの配線上で通信可能になります。また、厳しい車載用シグナルインテグリティも満たすことができます。

OPENとIEEEは、1本のツイストペアで1Gbpsを実現する1000Base-T1の新規格と、時刻同期(IEEE 802.1AS)およびタイムトリガイーサネット(IEEE 802.3br)など、イーサネットの決定的な機能の統合も含む、車載用イーサネットの開発に向けて協力関係を続けています。

当初は診断テストとファームウェアの更新に利用が制限されていた車載イーサネットの機能拡張は、診断やファームウェアの更新といった周辺機器の機能から、車載基幹ネットワークへと、最新の自動車内での利用を拡大していきました。