クラウドCDPを導入した背景には、試行錯誤に対応できる柔軟性

このIntelligent Pilotでパイオニアがデータ基盤として採用しているのが、クラウドデータプラットフォームである「Arm Treasure Data CDP」だ。

なぜオンプレミスのデータ基盤ではなくクラウドのデータ基盤を選んだのか。岩堀氏によると、多種多様なデータとその利活用の可能性があるなかで、データを組み合わせて柔軟に価値創造ができる環境を考えたときに、クラウドのデータ基盤が最適な選択肢だったのだという。Intelligent Pilotが目指す交通事故の削減だけでなく、コネクテッドカーの領域などにも注目が高まる中でデータの利活用には様々な選択肢がある。例えば、自社のデータを自動車産業に開放して業界全体で活用してもらう仕組みを作ろうとしても、プレイヤーによってデータに対するニーズは大きく異なるのだ。

「これからどのようなデータにニーズが生まれるのかは、なかなか予測がしづらい。最初にゴールを決めるのではなく、後からでも柔軟にデータを組み合わせて様々な基軸で利活用できる環境が必要だった。こうしたニーズに対して、Arm Treasure Data CDPの非常にフレキシブルなアーキテクチャは最適だった。あとから新たにデータをインポートしても、データベースを再設計することなく過去のデータとの整合性を合わせていくことが可能だ」(岩堀氏)

また、多岐に渡る選択肢の中から交通事故の削減にフォーカスを当てて、「AIスコアリング」をリリースした後も、様々なデータを新たに投入してデータ分析・ドライバーの評価軸を拡充する必要がある。「いまルール化できていないデータを分析しながら試行錯誤しなければならない。その中で柔軟性の高いデータ基盤が必要だった」と岩堀氏は語る。

「今後は、地図データに格納されている様々な情報をドライバーの運転履歴と掛け合わせて分析したり、他の車の運転状況とも紐づけていく必要がある。ドライバーを理解するためには、これからも紐づけるデータを増やしてデータ基盤を増強しなければならない。サードパーティーデータの活用なども含めて、あらゆる可能性を模索していく」(岩堀氏)

変化するモビリティ社会から生まれる、データ活用の新たな可能性

ところで、パイオニアはカーナビゲーションシステムやドライブレコーダーなど自社の製品を、カー用品店などを通じて直接消費者に販売しているが、なぜこのIntelligent Pilotは異業種と展開を行っているのであろうか。今後も様々な異業種との協業の可能性はあるのだろうか。この点について岩堀氏は「今後取り組んでいきたいテーマだ」と語る。

例えばモビリティの世界では、自動運転技術の研究開発が進み、一方で新たな自動車社会の在り方としてカーシェアリングなどのMaaS(マース:モビリティ・アズ・ア・サービス)に対する期待も高まっている。

「例えばカーシェアリングが拡大すると、ひとつの自動車を多くの人が運転することになる。現在の一般的な安全運転支援システムは自動車そのものの走行状態を分析しているが、今後はドライバー個人に対して分析・アドバイスができるような研究開発と進化が必要になってくるのではないか。Intelligent Pilotではユーザー毎に分析し、警告を出し分ける仕組みを既に取り入れている」(岩堀氏)

加えて岩堀氏は、「移動手段のバリエーションが増えることで、人々にとっては気軽に様々な移動手段を選び、移動時間の過ごし方を選べる時代が来るのではないか」とも語る。そこで注目しているのは、移動中だけでなく移動先における行動データをシームレスに分析し、新たなデータ活用の可能性を生み出すという視点だ。

「私たちはまだ移動のスタートとゴール(目的地)のデータしか知らない。そのゴールの先のデータを知らない。移動中のデータをその先のデータとつなげることが、今後重要なテーマになるのではないか。また、他の産業が我々のデータを活用して自社のサービス拡充や商品の価値向上に活用するというマーケティング的なアプローチも考えられる。現在我々は交通事故の削減という視点でデータを活用しているが、別の視点で活用の可能性があれば、外部の企業とも協業していきたい」(岩堀氏)

  • データ活用の今後について語るパイオニア モビリティサービスカンパニー データソリューション事業統括グループ デジタル戦略企画部 部長 岩堀耕史氏

日々ドライバーから生み出される膨大な運転行動データ、日々刻々と変化する道路状況に対応する地図データ、そのふたつを中軸に据えてパイオニアのデータ基盤はこれからさらに拡充していくことになる。パイオニアのデータ活用はまだ始まったばかりであり、その可能性は無限に広がっているのではないだろうか。今後の展開に期待したいところだ。