インターステラテクノロジズ(IST)は8月21日、北海道・札幌市内で記者会見を開催し、室蘭工業大学との間で開始した共同研究について発表した。両者が協力するのは、ISTが現在開発を進めている超小型衛星用ロケット「ZERO」で使用するターボポンプ。この製造コストを「通常の10分の1くらいにする」(IST稲川貴大社長)ことを目指すという。
ロケット開発の難関、ターボポンプ
同社が開発した観測ロケット「MOMO」は5月4日、日本の民間主導のロケットとして初めて高度100kmの宇宙空間に到達。自社開発した液体ロケットエンジン、アビオニクスなどの技術実証に成功した。ZEROでもこれらの技術は継承するが、ZEROで新規開発する必要があるのが、ターボポンプである。
液体ロケットのターボポンプは、推進剤を燃焼器に送り込むために使われる装置。MOMOはターボポンプではなく、高圧ヘリウムで推進剤を押し出しているが、これをZEROでそのまま大型化しようとすると、高強度のタンクが重くなりすぎて、システムとして成立しない。ターボポンプを使えば、低圧なので軽量化できる。
ただ、ターボポンプは、軌道投入用の液体ロケットでは不可欠であると同時に、最大の難関でもある。数万rpmという超高速で回転する部品があるため、振動が起きやすく、それによって壊れやすい。またうまく設計しないと、推進剤の中に泡が発生(キャビテーション)する場合があり、これが原因で打ち上げを失敗したロケットの例もある。
ISTの稲川社長はターボポンプについて、「技術的なハードルが一番高いと当初から認識していた」という。そこで協力を求めたのが、道内の室蘭工業大学。MOMOの開発でも論文を多く参考にしていたそうで、稲川社長は「これまでもお世話になってきたところだが、これからタッグを組んでやっていけるということで、ワクワクしている」と期待した。
室蘭工業大学側で協力するのは、同大の航空宇宙機システム研究センターである。同センターは、2005年に設置。航空機や宇宙機をシステムとして研究するために、白老町に1.7ヘクタールの広大なエンジン実験場を所有する。
敷地内には、800mの滑走路を用意。超音速無人実験機プロトタイプ1号機「オオワシ1号」の飛行試験を行っている。またユニークなのは、滑走路に平行して敷かれている300mのレール。台車にジェットエンジンやロケットエンジンを載せれば、加速まで再現した燃焼試験が可能だという(減速は水ブレーキで行う)。
同センターの内海政春教授は、「ターボポンプは、ロケット全体の性能を決めるほどのインパクトがある」と、重要性を指摘。「高速に回転させることで圧力を高める。高速なほどコンパクトで高性能が出せるが、破裂したり、振動や騒音が大きくなったり、悪い現象も起こる。そうならずスムーズに高速回転させるのが難しい」と述べる。
同センターには、ISTの社員4名が在籍(1名が常駐)。今後、共同で研究開発を進め、来年の夏頃にはターボポンプの最初のプロトタイプが完成する予定とのこと。単体試験のあと、同年度中にエンジンも組み合わせた燃焼試験を実施したいという。
ところで、競合であるRocket Labの「Electron」ロケットは、電動のターボポンプを採用したことでも注目された。ISTと室蘭工業大学も、電動ポンプの検討はしたものの、トレードオフの結果、一般的なタービン型に決まったそうだ。
これについて、ISTの金井竜一朗氏(ZEROプロジェクトマネージャ)は、「弊社の開発コンセプトは一貫して、枯れた技術で低コストを実現すること」と説明。「それぞれの技術はトラディショナルに見えるかもしれないが、それで低コストを実現するのが最もチャレンジングなところで、そこに意義がある」と述べた。